手紙-3
夏休みになってすぐ、計画は実行された。イザベルの家族がフランスに帰省するというので、手伝ってもらえないかとドンブロフスキーさんが尋ねたところ、二つ返事で快諾された。しかも、リーズさんたちがフランスに来る予定があるということから、時期を合わせての出発になった。僕たちは、フランスのシャルトルで会うことになった。
一時帰国するビクトルまで同行し、深刻な話のはずが、機内は家族旅行か遠足のような賑やかさだった。イーラはイザベルとずっと笑って学校の話をしていた。
「誠くんは行って何するの?」
隣のビクトルが、優しい目をして僕に聞いた。
「いや、何も考えず思い付きで来ちゃった。言葉もよくできないし。多分、何かはできるよ。」
「ふふん。面白いね。」
ビクトルは楽しそうに笑い、一瞬、遠くを見るような目つきをした。
「人間よ、気高くあれ! 誠くん、知ってる?」
「どうせゲーテでしょ?」
「それさえあれば、だ。あとでうちの親戚にでもに来てみる? 案外、帰りは誠くん一人かも知れないよ。」
「そうだなあ。イーラの気持ち一つだからね。そうなったら、そのとき、これからどうするか考える。どのみちオーストリアには寄らせてもらうよ。そう言えば、ラサが、ビクトルはホモだって言ってたぞ。」
「何が悪い。違うけどね。ちなみに親戚はマジャール。ハンガリーだ。実家はばたついててね。誠くんこそ、ロリコンなんだろう? 妹を紹介するよ。親戚の祖母に預けてあるんだ。五年生。どう?」
「どう、じゃないよ。まず言葉が通じないって。今度はハンガリー語かよ。」
「お兄さん、ロリコンなの? アニメとか好き? あたし好きだよ。」
いきなりイザベルが後ろの席から割って入った。イーラも加わり身を乗り出して
「そう、すごいロリコン。妹が恥ずかしいくらい!」
「あの、すみません。頼むからでかい声出さないで。Je suis vraiment désolé. 」
僕たちの会話をイザベルの両親が聞いて笑った。