ラサの進路-1
イーラは学校に通い始めた。
学校そのものに長く行っていなかったことや、言葉の不都合のことを考え、芸術的な活動に力を入れている私学に行くことになった。学校は僕が見つけてドンブロフスキーさんに提案した場所だった。日本には珍しい、幼稚園から高校までの一貫校だそうだから、入ってしまえば後はなんとかなると考えた事情もあった。教育はドイツ系で、世界中に姉妹校があるのだという。そんなところもイーラにはよいと思われた。
ドンブロフスキーさんは諸手を挙げて賛成してくれた。見学に行ったら、気に入った、ここがいいとイーラも僕に話した。速やかに手続きは運ばれた。
これでついに、僕がイーラの世話をする必要は全くなくなったのだった。僕はこれから何をしたらいいのかとドンブロフスキーさんに聞いたところ
「まあ、様子を見ようじゃないか。朝は一緒にランニングしてるんだし、帰って誠くんがいなかったら、また淋しがるだろうし。昼間は好きに過ごしなさい。」
淋しいのは僕だった。習慣から、イーラのものの洗濯を始めて、汗になった寝巻や汚れた下着を嗅いだら、恋しくてたまらなくなった。
本を読む気にもならず、一人でいることが辛くなった僕は、畑に出てみることにした。
外は相変わらず雲ひとつない青空だった。深緑色の緩やかな丘陵が遥か向こうまで広がっている。気が楽になった。
キュウリにトマト、ズッキーニ、ナス、レタス、ニンジン、タマネギ、ブロッコリー、ビーツ。作物は畑にまだまだある。これだけの種類につき、いちいちその育ち具合を確かめ、水をやり、土を見、漏らさず穫り入れるためには、愛情だけでなく、大変な忍耐と、変わらぬ気配りのできる胆力がなければ、とてもかなわない。ここへ来た始めの頃は、農業に将来たずさわろうかと考えたときもあったけれど、やってみて、僕には無理だと思い知った。