ラサの進路-2
「誠くん、久しぶりだ。」
声を掛けられたほうを向いたら、ビクトルがいた。レーキを持って、干し草を集めている。半ズボンに地下足袋、サングラスに麦藁帽というおかしな格好をしていた。
「どうした? あの子供は?」
「学校だよ。」
「畑、やるか?」
「考えてる。ちょっとだけ、いい?」
ビクトルは手を止めて僕の方に来た。日陰を見つけて僕たちは座った。
「ビクトルはこの先どうするの?」
「またそれか。」
「聞いたことないよ。」
「いや、ラサに聞かれた。」
「そんなこと知るかい。」
「特に考えてない。」
「不安とか無いの?」
「無いわけじゃないが、持っても意味がない。目の前のことをしていけばいいと思ってる。」
「したいこととか、ないの?」
「君だから言うが、僕は大いなる存在の」
「ビクトル、午前中に終わらせないと間に合わないぞ!」
遠くからドンブロフスキーさんの声がした。姿は見えない。ビクトルは大慌てで立ち上がろうとして、滑って転んだ。
「とにかく、今みたいに、やる事なんか向こうからやってくるもんだ。自分が何をしたいかじゃなく、自分が事にどう向き合うかが大事なんだ。僕の信念だ。」
「それって、消極的過ぎないかな。僕がまさにそうなんだけど。意志が弱いって言うか」
「やらされてるのか、やってるのか、そこの違いだ。ごめん、マスターが」
「ビクトル!」
ドンブロフスキーさんの声がまた聞こえた。ビクトルはなぜか狼狽して脚をもつれさせ、腰を打った。
「もっと話したかったけど、そう言えば、ラサを知らない?」
「ああ、あの子とは一度」
「ビクトル!」
またドンブロフスキーさんだった。ビクトルは腰を押さえながら走っていった。