人間らしく-1
一年と一ヶ月が過ぎた。
ここでの生活は何も変わらなかった。変わったのは、僕らの内面だけだろう。
イーラと僕とはずっと一緒にいるばかりでなく、他の人に会うことも滅多にない。それで、本当に二人で一人のような感覚になってしまった。一人の時間が欲しいとも思わなくなっていた。仕事でここにいる筈なのだが、全然そんな気がせず、ただ、言わば動物のように生きているだけだった。つまり、創造とか文化とか、そういうことに生きて関わっていないのだ。
お金は使うときがないから、かなり溜まった。親元へいくらか送っても、大学へ二年くらいは通える計算だ。でもそんなつもりもない。
社会性をなくしていく自分を感じていた。
イーラは十二歳になり、体つきが少し女っぽくなってきた。腋と下の毛が分かるように増え、胸もいびつに膨らみ、育つ勢いを見せていたが、何より、腰の形が変わってきて、胴が一層細長く見えるのが、興味深かった。
イーラの楽しみは、自分で以前言っていた通り、あんな事よりなくて、体がまだ女になりきらないうちに、そればかりしてきたのだから、女に疎い僕から見ても、同じ歳の子たちのとは形が違っているだろうと思わせる育ち方だった。動かせるところもそこしか無いので、細やかに意識は渡り、かなりの程度、自由に動くのだとイーラは言っていた。
「女の子って、すごいんだね。中にべろがあるみたいだ。もっと訓練したら手の代わりに使えるかもしれないよ。」
「そこでいろいろできても、触ったものみんな臭くなるでしょ。べろなんかあったら最低。」
「男は喜ぶよ。」
「男って。誠さんしかいないじゃない。どうせあたしの体、誠さんのものなんだから、驚いてないで、そこも自分の所だと思ってよ。」
しかし本当は、イーラ自身に生きている歓びを精一杯感じさせてくれる大切な所なのだった。体を重ねると忽ちイーラは恍惚感に包まれてしまう。それが何度も繰り返される。こちらはじきに出来なくなってしまって、指か口かで続きをしてやる。
だが、人間はこれでは生きていることにならないのだと僕は思った。イーラは字も充分に読めないし、言葉をいくつも話せても、知識はほとんどない。流行も知らなければ、メディアに触れたこともない。僕のことしか知らないようなものなのだ。
僕たちは、自分で勉強することに決めた。イーラを学校に通わせることは、物理的に大変難しかったし、イーラに負担をかけることにもなるため、諦めた。無論、本当は、友達がいたほうがいいに決まっている。
一日の中にリズムが現れた。まず、朝、僕が来たら、風呂に入る。そして朝食。午前中はイーラに僕が授業する。昼食のあと、三時までイーラは昼寝し、そのあいだ僕が勉強。三時から夕食までは、楽に過ごす。
人に授業をすることになるとは考えたこともなかった僕は、新しい経験に刺激を受けて、夜の時間、準備に熱中した。テストがある訳でもなく、当面の目的もない勉強だから、勉強自体が目的にならなければいけない。僕は、歴史をお話にして語り、その中に教科を盛り込んでいくことにした。
イーラは非常な速さで学習していった。こちらもやり甲斐を感じて、ときどき僕は、教師になろうかと考えることがあった。