元、家庭教師-1
ダブルデートが終わった日の夜、葵は一人自宅マンションへと帰った。
帰っても誰もいない、ただ広いだけの部屋。
葵は荷物を置き、自分のベッドに倒れ込んだ。
すると彼のポケットからスマホのバイブの振動が伝う。
疲れた表情で葵がスマホを取り出し、画面を見ると
登録していない番号からの電話だった。
しばらく出るのを躊躇するが、一向に鳴りやまない着信に葵はためらいつつも、
画面をタップした。
「―――もしもし。」
葵がいぶかしげに出ると、すぐに相手は返事をした。
「よかった、葵。電話番号変わってなくって。」
「・・・久実。」
「この間もメールしたのに、返事くれなかったじゃない?
違う人にメールしちゃったのかと思った。」
「何の用?」
「久しぶりなのに、冷たいわね。」
「用がないなら切るよ。」
「待ってよ、ちょっと会って話したいことがあるんだけど?」
「・・・俺はない。」
「私はあるの。昔の家は引っ越しちゃったみたいね。
まぁ、葵のお父さんに聞いて新しい家に尋ねに行ってもいいんだけど?」
「やめろよ!・・・わかったよ、どこに行けばいい?」
―――葵は思わず久実と二人きりで会う約束をしてしまい、
奈々子に申し訳ない気持ちになる。
しかし、奈々子に久実との本当の関係を知られたくない。
その想いから明日だけ、奈々子に内緒で久実と会う事にしたのだ。