元、家庭教師-2
久実は葵の4歳年上の、現在大学3年生だ。
彼女はもともと葵の父がどこからか見つけてきた、彼の家庭教師であった。
中学1年の夏休みから中学2年の1学期頃まで、約1年間葵の家庭教師をしていた。
葵の父は自分を目の敵にしている息子に出来ることをしてやろうと考え、
家庭教師をつけて学校の授業へ問題なくついて行けるようにしてあげよう
としたのだった。
葵は奈々子と出会ってから、過去を振り返らないように生きていたのに、
乗り越えなければいけない壁にぶつかってしまう。
これから偶然久実に会っても、話しかけてもらいたくない。
そう決めた葵は彼女に指定された公園で一人、ベンチに座って彼女を待っていた。
待ち合わせから10分後、久実がゆっくりと歩いてきた。
「ごめんね、葵。待った?」
「――待った。」
「そんな睨まないでよ、たった10分じゃない。」
「話って何?」
「え〜?いきなり本題?私車で来てるんだ、二人きりになれるところ行かない?」
「行かない。俺、彼女いるから。」
「知ってる。この間もいた年上の人でしょ?葵って年上が好きなんだね〜。」
「・・・久実には関係ない。」
「関係あるわよ、だって葵、私の事好きだったくせに。」
葵は黙って俯いた後、不機嫌そうに言った。
「・・・そんな話なら、俺帰る。もう連絡してこないで。」
葵はベンチから立ち上がろうとすると、久実は彼の腕をとっさに掴んだ。
「ねぇ、あの彼女に私が教えてあげた事、してあげてるの?」
久実に腕を掴まれたまま、葵はその場に黙って固ってしまったように動けないでいた。
「葵のテクなら、あの超年上の彼女だって満足してるんじゃない?私に感謝してよね。」
そう言われて葵は久実の手を振り払い、
そのまま振り向かずにスタスタと歩いて行ってしまった。
「ふーん、私にそんな態度するんだったら・・・覚悟しておいてね。」
久実は叫ぶように言い捨てた言葉を葵は背で受けたが、
拳を硬く握りしめてその場を後にした。