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アダルトビデオの向こう側
【熟女/人妻 官能小説】

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6.心の奥底-6

 ミーティングルームのテーブルを囲んでケンジ、ミカ、海山和代、それに拓也とカヨコの二人が座っていた。
 拓也が横にいるカヨコに向かって真っ先に口を開いた。
「香代さん、やっぱり貴女は将太君に会うべきだ」
「『香代さん』? カヨコじゃないの? 名前」
「実は……」
 香代は申し訳なさそうに言った。
「私の本名は『香代』なんです。『カヨコ』はAVの仕事をしてた時の芸名です」
「もしかして」ケンジが大声を出した。「香代さんって、志賀工務店の香代さん?」
 香代は小さくうなずいた。
「なんだ、ケンジ、知り合いか?」ミカが怪訝な顔で言った。
「そうか、だからどこかで会ったことがあるって思ってたんだ」
「会ったこともあるのか? いつ?」
「ほら、昔スイミングスクールのロッカールームの改修を『志賀工務店』に頼んだことがあったろ? その時に俺が直接建蔵さんにお願いに行ったんだ。その時お茶を出してくれたのがこの香代さん」
「香代さんは覚えてたの? その時のケンジ」
「はい、もちろん……でも私今は姿を変えてるので、黙ってました」
「不覚。あたしも気づかなかったな」
 海山和代が至極悔しそうな顔をした。
「香代さんはクリニックで何度も診察したことがあるのに……」
「ごめんなさい、和代先生、正体隠してて……」
 香代は申し訳なさそうに言った。
「将太君って息子さんよね?」
 香代はこくんとうなずいた。
「なんでさっき気づかなかったんだろう……知ってたのに。悔しい」
「で、でも香代さん、どうしてAVの仕事なんかを……」
 ケンジはひどく心配そうな顔をして訊いた。

 香代は今までのことをすっかりそこにいる三人に話した。自分が家を出ることになった理由、AV界でつらい生活を送っていたこと、そしてその時知り合った拓也に惹かれていったこと。

「家を出てたのか、香代さん……」ケンジはつぶやいた。そして香代に身を乗り出し、強い口調で続けた。「姫野君の言うように、香代さんは一刻も早く家に帰るべきだ」
「それは僕も香代さんも同じように考えてるんですが、」拓也が苦々しい表情で続けた。「約束の四年が経ったので、帰らせて下さい、って工務店のご主人にお願いに行った時、なぜか彼はひどく怒って、僕を追い返したんです」
「建蔵じいさん、けっこう頑固なところがあるからねえ……」海山和代が言った。「香代さんが出て行ったことを今でも許さないって思ってるのかしら」
「息子の将太君を置いて、ってところがやっぱり一番引っかかってるんじゃないか?」ミカが言った。
「建蔵さんとはケニーの方が親しい。やつに頼んでみよう。仲を取り持ってもらうには最適だ」ケンジが提案した。
「そうだね、ケニーは人並み以上にお節介な男だからね。それに情報屋だし。にしても、」ミカはケンジを見てにやりと笑った。
「な、何だよ」ケンジは頬を染めた。
「あなた、香代さんに思いっきりイかされてたね」
「わ、わかってたのか」
「そんなに昂奮してたのか?」
「いや、その……」
「ごめんなさい」香代は顔を真っ赤にして縮こまっていた。「私、我を忘れて、なんかもう……」
「すごいよ、香代さん」拓也が晴れ晴れとした表情で言った。「この『すずかけ町のセックス・マスター』ケンジさんを自分のペースでイかせるなんて」
「修業が足りないね、ケンジ」ミカが言い放った。
 ケンジは口を尖らせた。
「あのね、僕のことを『セックス・マスター』って呼ぶの、やめてくれないかな、姫野君まで……」
「え? だってそうじゃないですか。このセラピーでケンジさんに抱かれた女性は一人残らず大満足するらしいし、貴男に抱かれたくてわざわざ来る『なんちゃってクライアント』もいるんでしょ?」
「いるね」ミカがおかしそうに言った。「まるで女性向けフーゾク扱い」
「しかも、ケンジさんに抱かれた女性のパートナーの男性になぜか嫉妬心を全く抱かせることがない、っていうところなんか、もう神じゃないですか」
 ケンジはひどく困った顔をして口を閉ざしていた。
「パートナーがケンジに寝取られてる現場を見て大昂奮するオトコも結構いるんだ、あははは」
 ミカは高らかに笑った。
「ね、寝取ってるわけじゃない。変な言い方するな」
 拓也は自信たっぷりに言った。
「すでにあなたの『セックス・マスター』の称号は世の中に広く浸透してます」
 ケンジは赤くなったまま、ムキになって言った。
「姫野君、そもそも君はなんでそんなに爽やかな顔してるんだ? 君の愛するパートナーが目の前で違う男とセックスしたんだぞ?」
 拓也は小さく肩をすくめた。
「だって、『セックス・マスター』ケンジさんですから」
「もういい。何度も言わないでくれ」
「それに、香代さんがちゃんと全身で反応して、相手をイかせることさえできるってこともわかったんで」
「まったく……どっちがクライアントなんだか……」
 ケンジは頭を掻きむしりながらコーヒーカップを持ち上げた。


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