5.事件-8
「内部告発があったって警察は言ってたけど、誰かな……」
「あたいよ」
「おまえか」
「生意気で横暴でやりたい放題だった黒田たちを懲らしめてやんなきゃ、ってずっと考えてたからね。でも、あいつらが法に触れることをやってた証拠を掴んだってわけじゃなくてさ、単に虫が好かないから言いつけてやれ、みたいな感覚で通報したのよ」
「なかなか場当たり的だな」
えへへ、と笑ってリカは続けた。「でも思ってた以上に極悪人だったってわけね、あいつら。闇でそんなあくどいことやってたなんて」
「そうだな」
「だけど、今回あたいが実行に移せたのは香代さんのお陰って言えるかも」
香代は顔を上げた。
「え? どうして私?」
リカは呆れ顔をして言った。
「香代さんってお人好し過ぎだもの。人を疑うことを知らないから、あたい気が気じゃなかった。いつも」
「そう……ね。確かに」
「タンスのお金だって、愛する息子に早く会いたいあまり、林にそっくり渡しちゃうかもしんない、ってずっとはらはらしてたんだから」
「だから黙って盗んだのか」拓也が言った。
リカはむっとしたように言った。
「人聞きの悪い。盗んだんじゃなくて預かってたの」
そう言った後、リカは涙ぐんで身体をこわばらせている香代の手をそっと取って言った。
「これで、晴れてご家族の元に戻れるわね、香代さん」
香代は何も言わず肩を震わせていた。
「おまえはどうするんだ? これから」
拓也が訊いた。
「あたいは地道に生きていくよ。今、スーパーのレジ打ちやってんのよ」
リカはうなじに掛かった後ろ髪をさばいてみせた。
「おまえが?」
「似合わないっての? 大きなお世話」
リカは笑った。