5.事件-6
「どうだ、林、手がかりはあったか?」
「いえ」林は苦々しい表情で向かい合って座った黒田に言った。「アパートも調べましたが、何もかもそのままでした」
そして林は部屋に残されていたというリカのスマートフォンを黒田に手渡した。「バッテリーが切れています」
「おまえリカの部屋に入ったのか? 勝手に」
「そうですけど。何か不都合でも?」
「香代がいたら怪しまれるだろうが」
「留守でしたけどね」
黒田は林を上目遣いで見ながら低い声で言った。
「ついさっき拓也と香代がここに来たんだ」
「え……」
「危うく鉢合わせするところだったぞ、あの二人と」
黒田はその痩せた男を睨み付けた。
「香代の部屋にあった現金もなくなっていたらしい。おそらくリカの仕業」
「と、とんだ悪女ですね」
「それより、あの二人、俺たちを疑っとる」
林は声を潜め、身をかがめて黒田に耳を近づけた。
「金……ですか?」
「このままやつらに妙な動きをされると、最悪香代の夫の借金が嘘だということがばれてしまう」
「ま、まずいですね……」
「おまえが戻ったら連絡しろ、と言っておったわ」
林は青ざめて言葉を失った。
「何か手を打たねばならんな」
林は囁くような声で言った。「そうですね……」
「それで、おまえが香代のギャラから今まで受け取った金は総額いくらぐらいになっとるんだ?」
林は口を閉ざした。
「『クリえろ』からおまえに支払われた香代の出演料の一部だ」
林の額には脂汗が滲んでいた。
「あれは俺が立て替えた借金の返済という理由だったはずだ。いくらになった?」
「それも作り話でしょう?」林はかすれた低い声で言った。「元々香代に借金などない。夫が女を囲っていたという話自体真っ赤な嘘」
「何が言いたい?」
黒田は上目遣いで林を睨み、唸るような低い声で言った。
林は大声で言った。
「私のお陰で香代をこの会社に引き込むことができた。あんたはその売り上げで腹を太らしてるじゃないか。私にはそれぐらいの利益があってもいい!」
「つまり、その金は全部自分の懐に入れた、というわけなんだな?」
「当然の権利だ」
黒田はいきなり立ち上がり、叫んだ。
「もういい! 出て行け! おまえの顔なんぞ、金輪際見たくないわ!」
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