告白-1
「あれからラサは何か言ってきた?」
イーラを風呂に入れているとき聞かれた。
「いや。でもいろいろあった。」
「いろいろって?」
「ラサにやられちゃった。」
「何それ。」
「そのままの意味だよ。」
「女がどうやるの?」
「普通は誘惑。」
「それだと、するのは男の人じゃない。」
「だから普通じゃなくて、急所をまずぐしゃっと」
「そのあとどうしたの? そんなので大丈夫だったの?」
湯の中でイーラの溝にぬめりがあるのに気がついた。興奮してきたらしい。僕は指を入れてやった。
「顔にお尻を乗せられて、嗅がされてから、差し込ませられた。」
「結局、立ったのね。すけべ。」
「嗅いだらなるよ。臭かったけど。」
「女の臭いのがいいんでしょ? あたしのとどっちが臭い?」
「子供とにおいが違う。もっと、生臭い感じだ。」
「そのにおいがあたしのより好きなの? たとえたら何に似てる?」
しつこい質問になってきたイーラに嫉妬の気配を感じ取った僕は、指を素早く出し入れした。
「イーラのほうが素敵なにおいだよ。全部ね。」
イーラは黙って身を任せた。
「あした、夜になってから二人で街に行くようラサに誘われた。ちょっとどうできるか分からない。」
イーラはものを言おうとしたが、体が陶酔し始めて、言葉が出ないように見えた。
「ドンブロフスキーさんに話されたら、僕らはもう一緒にいられない。行ってくるからね。」
眉間に皺を寄せたイーラの背中が何度か仰け反った。差し込んであった僕の指は、女の子の体が嬉しがる長く激しい痙攣を感じ取った。
僕が指の動きを止めなかったので、イーラはずっと返事をすることができなかった。あとから話を持ちかけ直すこともなく、このことは終わった。
夜の街にいると、目が覚めたようだった。周りは石と鉄ばかり。人工的な光や音に囲まれ、いつまでも起きている人間。畑のある山の緑に包まれているときは、何か大きな河の流れに運ばれながら、偉大なものに目覚めているようなのだが、街では世界から切り離されて、孤独な自分と不確かな未来に目覚めている感覚だった。人間しかいないのに、一人を感じる。
僕は迷わず飲み屋に入った。チェーン店であれば、年齢は露顕しにくい。それに、外国人のラサの年齢など、普通の日本人には当てづらいものだ。
イーラの話はしなかった。一度、向こうが人には伝えないと言ったのを蒸し返すことで、展開が変わる危険があったからだ。今は言葉が通じる。共通の話題は、ドンブロフスキーさんの事しかない。
ラサは、ドンブロフスキーさんが怖い人だと言う。僕の印象では、五十過ぎで恰幅のよい、社長にしては貫禄が今一つの、親切な人物なのだが、ラサはそれを全部認めた上で
「Jes, jes. Mi volas diri, ke li estas tiel simpatia kaj honesta ke mi sentas min tre malpura. Ekkoni ĝin sentigas al mi teruran senson, mi pensas.」
なるほどと思った。怖いのは相手に映った自分の醜さを認識してしまうことか。それなら分かる気がした。とにかく、僕はドンブロフスキーさんが怒ったのを見たことがない。それを言うと、あたしもないとラサは答えた。
他に、ドンブロフスキーさんが何かの秘密結社に入っているという噂があるとラサは面白そうに話した。今どき秘密結社もないだろうと、酔ってきた僕も笑った。
「Iel li estas membro de mafio?」
「Tute ne eblas!」
マフィアではなさそうだ。