目の見えないネコの話-3
「十二年前のことだ。君は、まだ赤ん坊の頃に誘拐された。言葉も知らない、親の顔もしっかり覚えていない頃に」
その誘拐犯が、つまり、父。頭の中で、私は観察者の言葉を反復する。その度に、こめかみがきりきりと痛んだ。生傷に触れられているようだった。しかし苦痛に思う一方で、私は彼が話を続けることを望んだ。
父は、犯罪者だった。私の本当の両親は別にいて、今もなお健在だと言う。誘拐の理由はまだはっきりしていないが、主に虐待の道具にするために連れ去ったらしい。
そして私は、自分の名前を初めて知った。父の話も私の名前も、まるで他人事のように聞こえたけれど、観察者の話は全て真実なのだろう。悲しいことに、私の瞳が役立たずになったのも父の、いや、父だった人の犯行だろうとのことだった。ショックで私は呆然とする。観察者が、無言で立ち去ろうとしているのが気配で分かった。慌てて手を上げ、私はそれを止める。瞬間、あるはず無い自分の視線が彼のそれと結ばれた気がする。私は喉元へ意識を集中させながら、頭の中にある感情を声に変換した。
あまりに小さく、発音も悪かったので彼に届いたかまでは分からない。ひょっとすると、自分ではきちんと話しているつもりが、本当は凹凸の無い単なるうめき声になっていたかもしれない。けれどそれは、私にとって人間として生まれて初めて表に出した感情であった。
ありがとう。