リトアニア人 ラサ-1
ドンブロフスキーさんの奥さんはリトアニアの人だった。日本語がほとんど話せないので、専らエスペラントで僕らは話した。ちなみに僕がエスペラントを話せるようになったのは、ここに来てからだ。これがもしポーランド語だったら、事情はどうなっていたか分からない。
奥さんが体調を崩してから仕事の手が足りず、若い親戚の女性がリトアニアからやってきていた。この人は、英語とリトアニア語しかできない。僕とはそれで話の通じないことが多く、いかにも外国人という感じだった。名前をラサと言った。小柄でスタイルの良い、赤毛の娘だった。鼻が少し上を向いた感じで、可愛らしい顔つきをしていた。
作業するには、ラサと一緒でも身振り手振りで何とかなることが大抵だった。歳は十六なのだそうだ。奥さんがついに入院してしまい、僕がイーラの世話に回ってからは会うこと自体が滅多になくなってしまった。多少怒りっぽいけれども明るく元気なラサと一緒に作業するのが僕は好きだった。
実のところ、ラサもイーラの世話を手伝っていた。僕が帰ったあと、家族と夕飯を食べさせるのである。
「本当は、僕よりラサがいいんじゃないかな、イーラといるのは。トイレとか風呂とか、同性がしたほうが気楽だろう?」
「今さら関係ないよ。て言うより、ほかの人の前で裸になるの嫌だよ。女同士だとめんどくさいし、あの人、言葉通じないじゃない。」
「だって、家族と親戚が集まるとき、どうしてるの?」
「バベルの塔だよ。大体はポーランド語だけど。」
ドンブロフスキーさんのところが互いに外国人の家族だということを僕はよく認識していなかった。つくづく、懐の深い人だと思った。
「誠さん、あたしお散歩行きたい。行こうよ。」
「晴れてるしね。それにしても、車椅子って、軽くておしゃれなのないのかな。」
「そんなことより、おむつして。このあいだ、忘れて遠くまで行きすぎて、道でするの、恥ずかしかったんだから。お尻出して、抱えられて。」
「おむつのほうが、汚れてあとから大変じゃないか。」
僕が付いている昼間は、すぐトイレに行かせられるので、このごろイーラは下に何も穿かないのが普通になっていた。
「でもパンツくらい穿きたい。」
「スカートがあるし、誰も見ないのに。」
「女の子のからだ、分かってないな。動くと誠さんのが出てきてスカートに沁みるの。そうじゃなくても黄色くなっちゃうの。」
「それ、ラサにも見られてる?」
「夜はあたしおむつ替えない。あの人にしてもらったこと無いから大丈夫だよ。」
毎日、全部イーラの中に出してしまって、帰るまでにはすっかり空になっていた僕だったが、一人でするときと違い、体はイーラの女の子のにおいを吸って、むしろ元気で健康なのだった。
しかしそれだけ出していれば、当の僕らは気づかなくても、ラサにはにおいが分かるのじゃなかろうか。イーラにパンツを穿かせながら僕は呟いた。
「それはそうかもね。男の人の、におい特別だから。何か言われたら、あたしが守ってあげるよ。誠さん、早くお散歩いこ。」
穿かせ終わる前に、確かめようと、鼻を差し入れて嗅いでみたら、女の子の朝の香りに包まれてしまい、
「ごめん、欲しくなっちゃった。」
「ラサにもしてあげれば。」
少し意地悪い目つきでイーラは微笑んだ。