はじまり-1
小林紗英(こばやし さえ)は、まだ初々しさを残す可愛らしい少女だった。
生来、おっとりとして気の優しい性格をしており、それを表したように優しげな顔立ちをしている。まだ高校生になったばかりという歳若さも相まって、幼いと言ってもいいかもしれない。大きな目はぱっちりとしているがきつくはなく、唇はふっくらと小さい。背丈も小柄で、150cmを少し超えるかという程度だった。
ただ、その体つきは、およそ15歳という年齢にはふさわしくないものだった。肌は年齢らしく、真っ白で瑞々しいものの、「たわわな」というしかないFカップはセーラー服を見事に押し上げており、ほっそりした胴、肉づきはいいがきゅっと引き締まった尻に対して、あまりにもアンバランスだった。紗英自身、この巨乳にはコンプレックスを抱いており、出来るだけ小さく見えるよう、また、これ以上大きくならないよう、普段はもっぱらDカップのブラジャーを着けている。
この日も、それは同様だった。昨夜遅くまで小説を読んでいて寝坊した紗英は、ホームに滑り込んで来た電車にぎりぎりで駈け込んだ。
「はあ、はあ、はあ……っ」
駐輪場から走って来た紗英は、うっすらと汗ばんでいる。きっちりと結んだお下げの三つ編みは乱れていないが、セーラー服の胸元は、胸が大きく揺れたせいで少しずり上がっていた。サイズのあわないブラジャーをつけているため、あまりしっかり支えてくれないのだ。
(間に合って良かった……)
安堵した表情で胸元を直し、呼吸を整えるために深く息を吐く。
電車は、普段紗英が乗っている時間帯よりも混んでいた。座席が埋まっているのはもちろん、吊り革も、ドア前のスペースも、ほとんど隙間が無い。
次の駅は、乗り換えの連絡駅だった。並んでいた人びとがどっと車内に乗り込み、紗英は流れに逆らうことなく車内の中程に詰めて行った。周囲は軒並み紗英よりも身長が高く、ぎっちりと押し込まれて身動きをとることが出来ない。
(うう……暑い)
降りる駅まで、急行ならあと15分ほど。紗英は息苦しさを覚えながら、発車時の大きな揺れに脚を突っ張った。