〜 美術その2 〜-1
〜 2番の美術 ・ 版画 〜
次に【B2番】先輩が取り出したのは、木板、金属板、篆刻、プラスチック板――様々な紋様がついた板の数々です。 それぞれにインクがついていて、描かれた文字がどれも鏡文字だったことから、ああ版画の原版だろうなって見当がつきました。
『版画の良いところは〜同じ絵を何度も再現できるところです〜。 あとは〜あやふやな線がなくて〜コントラストがしっかり出せるのも〜版画ならではな気がします〜』
そう言いながら取り上げた木版に、サッとインクを被せます。 上から刷り紙を重ね、ばれんを押しつけながららせん状に動かせば、あっという間に一枚の版画が刷りあがりました。 中央に黒い丸があり、丸に向けて幾筋もの線があつまっています。 外側は丸みを帯びた輪郭に、所々盛り上がりを強調する陽刻が散らしてありました。
『一応確認しますけど〜何の版画か分かりますか〜?』
小首をかしげる先輩に、私は小さく頷きます。 おちょぼ口のような穴は、学園入学前であればさっぱり縁がなかったでしょうけれど、入園以降は毎日目にした器官で間違いありません。 本来であれば人目に晒すことの無い排泄器官……学園で謂う所の『オケツの穴』。
『普通に描いてみても〜ここはどうしても同じような絵柄になっちゃうんです〜。 じゃあどうするかっていうと〜何枚も作れてメリハリも効かせる方法で表現します〜。 ここらへんの線とか、どう思いますか〜? 割といい感じで〜あたしのお尻っぽくなってませんかね〜』
淡々と版画の輪郭をなぞる【B2番】先輩。 ということは、私の前にある原画のモチーフは、先輩自身のオケツであり、オケツの穴なんでしょう。 相部屋なため先輩のシミ1つないお尻はいつでも傍にありますし、下の世話もさせてもらっているため、オケツの穴も見慣れています。 言われてみれば、まん丸というよりやや洋梨様に窪んでいる版画の孔は、先輩のオケツの穴の特徴を捉えていると言えなくもない気がします。
……。
『単色木版画』
俗に『板に心を刻む』といいます。 だとすれば、自分のオケツ穴を板に刻むよう指示された場合、私たちの心はオケツということになるんでしょうか?
版木を作るといえば、スケッチをトレーシングして版木に写すと想像しがちです。 学園では、まずオケツを左右に割ってケツアナを拡げてから、万遍なく鉛筆の粉をまぶします。 そうしておいて板の上に腰かけ、尻たぶを左右に広げるように体重をかけるんです。 単に体重をかける程度じゃ赦して貰えません。 何しろお尻の中心にあるケツアナの型を版木に写さなくちゃいけないため、版木を握ってお尻に押しつけたり、壁に手を突っ張って板に身体を密着させたり、とにかく顔が真っ赤になるまで力を込めて型を取るそうです。
ここから先の工程は私が知っている版画のソレでした。 おけつの質感が出るように墨を入れ、丸刀や三角刀で墨を掘り、インクを塗って刷り上げます。 出来た図柄と自分のケツアナを見比べてちゃんと個性が出ていたら、美術の時間の倣いで、教官にチェックしてもらいます。 鉛筆の粉にまみれた灰色のオケツを差し出し、自分で拡げた持ち物と版画を見比べて貰って、教官が『拡げなさい』『盛り上げなさい』『つぼめなさい』と言うたびに、その通りにケツアナを動かすそうです。 こういう指示はまだマシな方で、時には『排便直後の孔を見せなさい』『排便直前の孔を見せなさい』なんて言われることもあるんだとか。 後者であれば直腸傍まで糞便を押出すだけでいけますが、前者であれば教室でひりだすことになります。 そうやって様々な角度から肛門を観察してもらい、最終的に教官から『臭い立つ孔』『戸愚呂が潜む孔』『不遜に感じるおけつ』といったタイトルを貰うことができれば合格の運びとなります。 ちなみに先輩が見せてくれた版画のタイトルは『貪欲なアスホール』だそうで、確かに色々入りそうな、肉厚で大きな肛門の絵でした。