〜 美術その1 〜-1
〜 2番の美術 ・ 素描 〜
「いやぁ、放課後特訓も随分長くやりましたけど、ようやっと残すところ1教科だけですよ〜。 はい拍手〜パチパチパチ〜」
「やっとゴールだよ……ホント、気楽に引き受けるモンじゃなかったな」
「『にに』ちゃんやあたしは中休みがあったからマシでした。 『にっく』は副寮長の手前、ぜぇんぶ面倒な所は引き受けてくれて〜。 しかも、特訓にほとんど皆勤ですもんねえ。 よくやるなぁって思います〜」
「ありがと。 我ながらよくやったと思うわ。 もともと言いだしっぺは『にに』なのに、さぼり倒されるなんて思わなかったよ。 今日も『インターンの予習で忙しいからパス』とかいっちゃって来てないし。 私達だって準備万端じゃないっての。 直属でもない後輩のために時間割くのがバカらしくなってくる」
「まあまあ。 そこは、ほら、あたしたちも面倒かける時だってありますし、持ちつ持たれつでいきましょう〜」
「いいんだけどね、別に。 私からしたら、去年先輩にしてもらったことだもん。 授業についてけなかった私たちがこうして進級できてるのって、放課後に先輩たちが構ってくれたからなわけじゃん? なら、立場が逆になったからってさ、後輩の頼みを断るわけにはいかないよね。 『つう』も『にに』も身体を張るとこは張ってくれたし。 セッティングくらいは私がしなきゃ」
「偉い偉い。 『先輩が後輩を鍛える』っていう、せっかく先輩方が作った史性寮の伝統ですもの〜。
ちょっと今年は優しすぎた気もしますけど、まあ細かいコトはいいじゃありませんか〜」
「そういうこと。 とにかく今日の『美術』が実技の最後なんだから、チャチャっと終わらせちゃおう」
「はい〜」
カチャカチャ、ガチャガチャ。
段ボールから様々な造形を取り出しては机に並べる先輩方。 どうやら今日のテーマは美術で、これで特訓も最後らしいです。
「……よしっ!」
思わず笑みがこぼれます。
やった、やりましたよ私! とうとう最後!
エライ! 私ってば超頑張った!!
授業で虐められてからの放課後講習、一時期もうダメってなりましたけど、どうにか最後の1科目までたどり着けました。 思えば音楽、技術、書道に家庭科……主教科とは違った類の過酷な科目ばかりでした。 正規の授業を予習する形式だったから、一時間に扱う内容も密度が半端なかったです。 勘と姿勢がいい22番さんと一緒に色々やらされて、動きが甘くなるたびにボコボコになるまで指導されました。 鑑賞の時間も少しはありましたが、ちょっとも見逃すまいと全力で集中したから、頭に疲労は蓄積します。 そういうわけで、特訓をしてもらった日は、身体も頭も特別にクタクタになりました。
もちろん、先輩を通じて頂いた情報、経験は私の宝物です。 特訓に感謝こそすれ、嫌がるなんて言語道断なのはわかってますが――それでも特訓はあんまりにキツすぎでした。 だから、これで終わりと思っただけで、
グッ。
無意識のうちに小さくガッツポーズまで出しちゃいました。 隣の22番さんは全然表情が変わりませんが、内心では喜んでると思います。 そう思って顔を眺めると、いつもより瞬きが多い気がします。
「教える役は『つう』に任せるからね。 私、美術の成績からっきしだったし」
「えっ、あたしですか〜??」
「当然だよ。 芸術系はクラスぶっちぎりの1位なんだから」
「……美術……教える……う〜ん」
「どしたのさ」
「いえ、その、教えるっていわれても、感覚で作ったものなんで、特に言うことないなぁって〜」
「なんでもいいじゃん。 作り方でもコツでもいいし、思いつかなかったら、とりあえず『つう』の作品を見せてあげて、解説すればそれっぽくなるよ。 っていうかここにある作品って全部『つう』のなんだから、教える役は『つう』しかいないよ」
「そうでしょうか〜」
「そうだってば。 大丈夫、つうはセンスあるんだから。 変態のセンスがさ」
「変態っていわれてもねぇ……まあ、学園的には褒め言葉ですけど〜」
「とにかく早くやっちゃおう。 今しがたパッと並べただけでも結構な数あるもん。 全部説明しないにしても、チャチャっと進めた方がいい」
「ふう……それじゃあたしがメインで話しますから、補足は『にっく』にお願いします〜」
先輩達が机の上に並べた展示は、絵画にアルバム、木彫に版画、ポスターから工芸品まで多士済々です。 先輩たちによれば全部【B2番】先輩が作ったということですけど、一年間でこんなにたくさん作ったってことでしょうか。 だとすれば美術は週に1コマだから、1作品あたり2〜3時間で完成してる計算になります。
「えっと、じゃあ〜、まずはこれを見てください〜」
作品そのものというより、その数に圧倒されていた私でしたが、先輩の聞きなれた鼻声で我に返ります。 視線をあげると、そこにはプリーツ姿の【B2番】先輩が、右端にあった絵画を示しながら微笑んでいます。 伏し目がちにこちらを伺う様子は、どことなくはにかんでいるように見えました。