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ぴあのと川辺とレイチャールズ
【青春 恋愛小説】

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ぴあのと川辺とレイチャールズ-3

目をつむってかすかな音を探す、まるで本当のレイ・チャールズみたいだ。
「私も楽しかった。気持ち良いね、こういうのって」
まだ指を鍵盤に触れたままだったレイが、私の言葉に閉じていた両目をそっと――でも素早く――開いた。今まで見えない音楽を映していたその黒眼に私ののっぺりした顔が2つ並んで映る。
「俺、好きだ。…お前の歌でピアノを弾くの」

心臓がまるで小魚の様に跳ねた。まるでさっきの河で見た魚みたいに。
レイはなおも続ける。
「お前はさ、音楽、やりたくないか?」
彼の瞳に映る私は、まるで何事も無いように清ましている。怖いくらいに。
「私は歌なんてマトモに歌った事なんかないって!せいぜいカラオケ好きなタダの学生よ」
笑い飛ばす表情は、もういたって自然だ。心脈は平常のリズムを取り戻している。
「そりゃ、当たり前だよ。歌なんて素人の俺から見ても、お前息漏れはするし、音域だってそんなに無いし」
でも、と、レイは真剣な瞳で私に向き合う。綺麗な黒い髪がふわりと揺れる。
「なんか、好きなんだ。今までも何人かと演ってみたけど、ケートとするのが一番キモチイイ」
―――ケートとするのが一番キモチイイ。

私の心臓は、平静を取り戻そうと、今や川上りをする鮭のように感情の激流に抗っていた。私はレイの言葉に、瞳に、そしてそれ以上に、あの感覚にとてつもなく魅力を感じていた。生のピアノ演奏に合わせてメロディを紡ぐ事が、あんなにキモチイイなんて。まるで心臓の辺りから“ワタシ”が溢れ出る感じ―――あの、天にも昇るような解放感。

もう一度、したい。レイのピアノであそこへ行きたい。もう一度、あの世界を見てみたい。

「いいわ、やる。…ううん、やりたいの。やらせて」

私がそう言うと、レイは私に握手の手を差しのべながら言った。
「よろしく、オノ・ケート。」
きらきらしたあのひだまりの中の川藻のような、あたたかな笑みを顔じゅうにひらめかせて。


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