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ぴあのと川辺とレイチャールズ
【青春 恋愛小説】

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ぴあのと川辺とレイチャールズ-1

青春には、青い空に白い雲、そして挫折はツキモノだと言うけれど、私は、二十歳の夏、もうそろそろ青春を卒業したいとつくづく思った。
先月メカニックデザインを独学で始め、あっという間にサジを投げた自分にいい加減うんざりしていた私は、そんな事を考えながら、今、大きな堤防のある河辺に寝転がり、目の前には、情けない位に青く澄んだ空が広がっている。皮肉な位に青春ごっこだ。



五月の風邪が涼しい。暖かな皐月の光が気持ち良さそうで、私はゴロンと橋の下から日向へと寝転がった。比較的綺麗に清掃された河から、川魚が白い腹をひらめかせたのが目の端に映る。来月にはこの川が雨季の増水で険しそうに表情を変えるだろう。せめて今だけはこの心地よさに安息していようかな、とぼんやりと思った。
「おい!そこ俺の場所だぞ、取んなよ」
安息はつかの間だった。平和というのは常に利己的な権力におびやかされるのが世の常だとは言え、こんなささやかな公共の場所をも私有するなんて、権利書のひとつも拝見させて頂きたい次第だ。…と思ったのでそう言うと
「かっわいくねー、彼氏いねぇだろ、お前」
言った少年もせいぜい中学生。可愛くないのはお互い様だ。
「可愛いげが無いのはお互い様でしょ?まぁ、座った座った」
にっこりと―――にやりと評する人も居るだろうが、主観の問題だ―――笑いながら、頭の横の雑草を叩いて指図する。
「へんなやつ…。お前、幾つだ?」
「今年で二十歳」
「………。ふ、ふうん…。その割にガキっぽいのな」
ここで驚くと年上なのを傘に主導権をにぎられると思ったらしい。白々しさが微笑ましかった。
「俺は因みに十五だよ。こう見えても今年でコーコーセーなんだぜ」
「へぇ…」
とりとめもなく話を交す私の額にかかる前髪を風が撫でていく。


「気持ちいいねえ、なんだか歌いたくなっちゃった」
なんだよそれ、と揶揄されたが気にしない。私は“Country Road”を歌った。ABCの歌を除いて、私が初めて自力で覚えた英語の歌だ。
「♪Almoust Heaven…」
歌い出して暫くはぼんやりとした様子だった彼も、サビにさしかかると徐々に体を揺らし、拍子をとりながら一緒に歌っていた。私をお家に連れてって、と。何度も。「「〜Take Me Home Country Road…♪」」
ジャーン、とピアノを弾く真似をして、少年は暫く悦に入っていた。


「…おれ、好きだな」
歌い終わって悦に入っていると、川藻をぼんやりと眺めながら、少年は呟いた。
「なにが?」
「あんたの、声」
言うと、少年はくるりと私に向き直り、開口一番こう言った。
「ちょっと俺ん家来てよ」
「は!?」
流石に平常心を保って居られなくなり、すっとんきょうな声を上げてしまった。
「馬鹿にしてるの?名前も知らない男に付いて行く程馬鹿じゃないわ」
「!…そういう意味じゃ無えよ!とにかく来て欲しいんだ。安心しろよ。女はちゃんと選ぶ主義だ」「失礼ね」
苦笑いしながら私は答えた。普通なら信用ならないが、彼なら大丈夫そうな気がした。
「いいわ」
立ち上がろうとすると、少年がにっこりと笑いながら手を差し出した。晩春の暖かな陽射しをうけたその笑顔は、文字通りきらきらと輝いて見えた。
「俺、レイ。池戸 励。よろしく。」
風が彼の黒みがかった前髪を、そっとかすめていった。


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