第3章 待ち人来たらず-1
第3章 待ち人来たらず(1)
嫌な過去の思い出を吹っ切るかのように、悦子は頭をひと振りしてからアイスティーを口に運んだ。
美弥はまだこなかった。まもなく八時半になる。
(もしや、捕まったのでは……)
さっきから何度も悦子の頭の中をそのことが何度もよぎっていた。
(でも、捕まったとしても、絶対に大丈夫だわ。……美弥も……フィルムも……)
マイクロフィルムの運搬方法は悦子が考案したものだった。
まず、フィルムもカメラもこの計画のために特製のものだった。まず、撮影後のフィルムをカメラから取り出し、巻き取ったフィルムのケースのパトローネごと、テフロン製のカプセルに入れる。カプセルは、直径八ミリ、長さ二十ミリ、重さ五グラムの円筒形の茶筒のような形をしていた。テフロンは熱や薬品に耐えられる優れた素材であるだけでなく、表面が大変滑らかだった。そのケースにフィルムを入れ、女性の膀胱に入れて運ぶという考えだった。
膀胱への入れ方は簡単だった。
トイレに入り、しゃがみ、おしっこをする。その後、カプセルを入れるためのストローのようなテフロンでできたアプリケータを尿道口にあてて静かに尿道に沈めていく。アプリケータは摩擦がないためスムーズに膀胱まで到達する事ができる。女性の場合、五センチも入れば十分である。
膀胱に達すると、アプリケータの先からタラタラとおしっこの残りが垂れてくるのでわかる。そしたらすばやくカプセルをアプリケータの筒にいれ、細いテフロン棒でカプセルを膀胱内へ落としこめばお終いだった。
この方法はアプリケータがかなり太いので、尿道口から膀胱へ差し込むときの難しさと痛みがある。が、一度膀胱に入ってしまえばカプセルの異物感もなく、カプセルが入っていても行動には全くの制限がない。もちろんカプセル運搬時には普通に排尿が出来る。カプセルが大きいので飛び出すこともない。
なにより、短い尿道を持つ「女の特権」を最大に活かした方法だと悦子は自負していた。
<第3章 待ち人来たらず(1) 終わり>