温泉旅行-18
小さな瓶で 簡単に飲み干せてしまう地ビール
その空き瓶を置き 俺は 隣の彩香を見た
まだ飲み切らない彩香は 湿った唇を手首で拭っていく
翔も 彩香を見ている
ヒグラシの声と 竹が風に揺れている音がしているだけだった
「静かな場所だね 涼しいし」
「少し山の中だし もともと 田舎だからな」
翔は 空になった瓶を指ではじいている
「なんだ、藤原、物足りないのか?」
「足りないでしょ、仕方ないな 俺 買ってくるよ」
そういうと 翔はすっと立ち上がり 財布を確認していた
「いいよ ご飯もまだだし そんなに早く飲んでも・・ね」
彩香は 少し困っている様子で翔を見上げていた
コンコン
ちょうど そんな時に 部屋のドアをノックされ
石田さんが「失礼します」 と入ってきた
「地ビール飲んでるんですか?こちらの地ビールは 気に入っていただけましたか?」
「はい 優しい苦みというか 何かの植物の香りのような」
「気に入っていただけたら 町長も喜ぶと思います」
「町起こしのビールだもんね 俺は ドライの方が好きだな」
翔がそういうと 石田さんが 小さく笑った
「私も・・・・このビールは苦手なんです・・・」
つい みんなで笑ってしまった
「あ そうそう お食事の方は何時がよろしいですか?」
「そうだな 早めにいただいて 後は 飲もうか」
「翔 地ビールは苦手なんじゃないの?」
「そん時は ドライと チューハイにするよ」
「では 夕食は 六時にこちらの部屋のお持ちしますね」
「あ、その時の飲み物は・・・」
「ドライで 2本ほど 瓶で用意しておきますね」
石田さんは ニコッと笑って 帯から出したスマホに何かを入力していく
「あ!私は食事のときはウーロン茶で!」
「かしこまりました 乾杯できるように 瓶とグラスで用意します」
石田さんが 一通り 食事の要件を聞き終わって
スマホを帯に戻した後
翔が 話しかけていく
「今日は お客さん多いんですか?」
「そうですね 夏休みにしては 今日は普通ですね」
「意外と 人気あるんですね ここ」
「ご家族のご旅行より 少し違うお客様が多いですけどね」
「へーどんなお客さんなの?」
翔がそう聞いた途端
石田さんは 少し恥ずかしそうにしてしまった
「あ・・・もしかしてあんまり良くない客かな?」
「いえいえ、えっと・・・その 男女でいらっしゃるとか」
「お・・・恋人同士の・・・・かな?」
「えっと・・・そう・・・あ、いえいえ・・・それ以上は言えませんね」
「あ・・・もしかして 不倫・・・旅行とか・・・」
石田さんが わかりやすいくらい赤面した
「翔!そんなこと聞いてどうするのよ!」
「ごめんごめん・・・つい 好奇心で・・・石田さん ごめんね」
「大丈夫です ただ この宿を 嫌ってもらいたくないので」
「嫌ったりしないよ、さて 食事まで館内を散歩しようか」
「はい 館内のご案内は各所に札や案内が出ております」
石田さんは 業務の顔に戻り
中庭 竹藪の散策路 喫茶コーナー 温泉の案内を簡単に済ませて
部屋を出ていった