〈狂育〉-7
(そ…それ着たトコを写真に撮ったら……お家に……?)
亜季からすれば、自分を拉致してレイプした憎らしい男である。
とてもではないが信頼のおける人物ではない。
本当にその下着を着た姿を写真に収めるだけで帰してくれるのか疑いしかない亜季は、暫くドアの付近に立ったままだったが、しつこく続けられる手招きに根負けしたように渋々従うように歩み寄り、おどおどしながらその隣に座った。
『さ、お座りしたら「いただきます」だよ?ほら、お兄ちゃんが食べさせてあげる……亜季ちゃん、ほら“ア〜ン”ってして?』
「う……ふは……」
冷めだして固くなり始めたパスタは隅から解され、そしてフォークに巻き付けられて口元に運ばれた。
これを食べなければ着替えまで進まないのだし、気持ちはどうあれ今の亜季は食べるしかなかった。
『……ほら、ジュースも飲んで?冷たくて美味しいからさ』
「………コクッ…ゴクッ…!」
マンゴージュースは歯に凍みるほど冷たく、その甘味と香りは亜季の口一杯に広がった。
身体は生命の維持を優先させて自尊心を抑えさせ、それと引き換えに食欲を涌かせていた。
ほとんど強制的な食事でもマンゴージュースの喉ごしは爽快だったし、パスタに絡むホワイトソースの旨味も唾液の分泌を加速させる。
『せっかく作ってもらったんだから全部食べて?ほら、マンゴージュースもまだ残ってるよ?』
ほとんど完食した亜季は、ケプッ…と可愛らしいゲップを吐いた……男はニコリと笑うと、待ってましたとばかりに背中を屈めてバッグに手を伸ばし、例の下着を取り出した。
『お腹いっぱいになった?じゃあそのワンピース脱いでさ、この下着を着て見せてよ』
「ッ…!!!」
いきなり『脱げ』と言われた亜季は、ワンピースの裾を握るまではしたが、そこからは動かなかった。
下着を身に着けるのだから、一度は裸にならなければならないという当たり前の事を、この瞬間まで亜季は気づかないままでいた。
『どうしたの亜季ちゃん?早くワンピース脱いで下着に着替えてよ?』
「ふぐッ!ぐ…!!」
握られた拳はプルプルと震え、進退窮まって困り果てた亜季は縋るような眼差しを長髪男に向けた。
この部屋の中には、気の利いた更衣室など設えられてはいない。
つまり、いつまた襲ってくるか分からない変態の目の前で着替えるしかない……という事だ。
こんな所で脱ぎたくはない。
しかし、着替えなければ帰宅への道は決して開けない。