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離婚夫婦
【熟女/人妻 官能小説】

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義父-1

 金曜日の夕方。豊川は、いつもとは反対方向の電車に乗っていた。
 毎日降りている電車に乗り込む際にも少々違和感を感じた。
 仕事も珍しく定時で上がり、とある場所に向かっていた。いつもとは違う車窓の風景を眺める。ああ、ここは車で通った場所だと思い出す。特徴的なビルが見えたからだ。
 通勤ラッシュ手前の車内は、学生服姿の若者が多く、普段の音とはまた違った音が聞こえてくる。
 ヘッドホンを着け、指先と爪先でリズムを取る長髪の若者。ひたすら携帯電話の画面を見つめる女子高生など、豊川が高校時代に通学で電車を使っていた頃とは全く違った光景になっている。
 通常の勤務日に17時台の電車に乗ることは稀である。
 最近は、世間一般の流れとして労働環境の見直しが叫ばれる世の中。豊川の勤める会社も例に漏れず、水曜日はノー残業デーなどと銘打ち、残業の抑制も始まっている。
 もちろん決められた時間通りに働くことは、肉体的にも精神的にも好ましいことではあるが、遮二無二働くハングリー精神は逆に衰退しているようにも思える。
 豊川の新人時代は、サービス残業当たり前、終電、午前様当たり前だった時代も終焉を迎えつつあり、『社畜』と言われるような働き方まではしていなかった。しかし、上司たちはモロにその時代の人々で、よく嫌味を言われながら働いたものだった。
 今では、遅くとも20時には帰社するように努力しているし、部下たちにもなるべく早く帰社するように進言している。
 実際にも、電子機器の発達、業務の効率化など様々なファクターによって、以前のような煩雑な事務作業がだいぶスッキリした印象がある。その恩恵か、平均すると19時前には帰れるようになっている。仕事の立て込み具合によっては、遅くなってしまうこともあるが、そのような日は月に幾日も無い。
「あれ、珍しいですね」
 帰社の際、所員面々から同じように声を掛けられた。
「時間管理の成果だよ。仕事の成功は、しっかりとした時間の使い方から始まるって、何かで読んだんだ。みんなも遅くならないよう、しっかりと時間管理をしてくれ。能力が無いからいつまでも残業しているんだと評価される時代が来てるぞ」
 多少盛って話をしてみたが、昨今の業務管理事情からすればまんざら冗談な話ではなくなるかもしれない。
「そう言ってても、月曜になったらきっちりと残業してるんだよなあ。代理は」
 図星だ。自ら率先して早く帰るよう、部下に姿勢を見せるタイプの上司もいるだろうが、豊川の場合は、部下の仕事の進捗状況を見極めた上で、自分が一番最後に会社を出たいタイプだった。

(こんな駅あったのか・・・・・・)
 初めて耳にする駅名だった。車掌のアナウンスが流れ、次の停車駅が伝えられたが、これまで聞いたことは無かった。
 普段使っている駅から3駅ほど、時間にして15分程度なのに馴染みが無いということは、どれだけ自分の生活圏が狭いことか、あらためて認識した。
 外周りは営業車を使うことも多く、電車を使う場合でも主要幹線がメインで、地方路線はあまり使わない。公共交通機関が整備されていないアクセスがよくない客先は、車で行った方が手間は掛かるが効率は良い。一日に数往復しか運航していない田舎の客先でえらい目に遭ったこともあった。それならば営業車を使う方が無駄な時間が少なくて済む。
 そんなことから、あまり使わない電車路線も多く、近場であっても初めて通る駅があっても不思議ではなかった。
 目的の駅は、その見知らぬ駅の次の駅。他の路線と相互乗り入れをしているため、名前ぐらいは聞いたことがあったが、実際に降りるのは初めてだった。
 ホームの階段を降りると、ぷーんと醤油出汁の良い香りが鼻をくすぐった。
「あそこの駅蕎麦、すごく美味いんですよ。代理も一度食べてみてください」
 部下から聞いた情報を思い出した。
(ああ、ここの駅だったな。帰りにでも寄ってみるか、それまで開いているかな?)

 この日、豊川は義父(正確には元義父)の紀夫から呼び出されていた。
 望未の父である紀夫は、警察官を退官後、父親(望未の祖父)が営んでいた農業と顧問を務める防犯コンサルタント会社の二足の草鞋が生活の中心となっている。
 農業とは言っても、営んでいた父(望未からすると祖父)が他界してからは、いくつかの農耕地を売却し、『いつまでも身体は動かしていたいから』と自分の手が回る程度の畑だけ手元に残し細々と耕している程度だ。
 それでもそれぞれの収穫時期になると、お裾分けだと言って、取れたての野菜を届けてくれた。
 防犯コンサルトの方は、昨今のセキュリティーに対する意識の高まりもあって、セミナーや研修会など意外と引く手数多らしい。
 テキストを丸読みするような机上の理論をばら撒くだけの無責任な講和ではなく、刑事時代の経験からより具体的で実践的な紀夫の話はけっこう評判がいいと聞いたことがある。
 今日は、その防犯コンサルタントの仕事で近くまで来ているからと連絡があった。おそらくこの辺りでセミナーか何かが催されたのだろう。

 豊川は、義父と会うことに正直、気が進まなかった。望未と離婚して(離婚届提出から)半年。離婚してからは初めての対面となる。離婚の報告も、直接はまだしていない状態。
 望未と二人で義理の父母に報告するのが筋だと思い、再三申し入れをしたのだが、望未は『その必要はない。私が話をすれば十分』と、突っぱね続けられていた。
 その事を、義父から咎められるのではないかと思うのは、当たり前のこと。きっと、叱責を受けることになるのだろう。
 警察官という職業を地で行くような実直で正義感の強い義父。それでいて、気さくな人柄なため、地域の人からも高い信頼を受けていたようだ。
 豊川は、そんな義父からかなり可愛がられていた。三人娘ということもあって、息子がいなかったことがすごく残念だったと漏らしていたことがある。


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