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離婚夫婦
【熟女/人妻 官能小説】

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義父-2

『息子と酒を飲むのが俺の夢だったんだよ』と何度も聞いたことがある。
 長女は遠くに嫁ぎ、末娘は未だに未婚。唯一、息子扱いできる存在が婿殿である豊川だけだった。そんなこともあって、息子同然に接してくれたのが義父紀夫だった。
 だから余計に、義父に対して申し訳ないと思っている。
 本当は、目の前で謝りたかったのが豊川の本心だったが、今日の今日まで実現できていなかった。怒られることが嫌なのではない。ずっと話が出来ていないまま、本人と対面するのが心苦しいのだ。

 改札を抜けると、再びぷーんと鰹節の良い香りがしてきた。先程の出汁の香りとは明らかに違う、とてもふくよかで香ばしい。
 香りのする方向に目をやると、交差点の向こうにやたら年季の入った建物が目に入る。暖簾には『立ち喰い』と書かれている。どうやらこちらが部下の言う蕎麦屋に違いない。そう言えば改札内にあった蕎麦屋はチェーン店だった。チェーン店でも味が違うもんかなと思ったが、 やはりチェーン店はそれなりの味なのだろう。
 最近はチェーン店でも侮れないレベルの味にはなってきているが。
 その年季の入った立ち食い店は、食事時の前なのに道から溢れて路上でも蕎麦を啜る客がいる。席数自体も少ないようだが、それでも外まで客が群がるぐらいだからよほど美味いのだろう。
 人と人の隙間から営業時間の書かれた貼紙が見えた。日に焼けきった紙には、7時〜18時と書いてあった。これから会食をするため、残念ながら今回は無理だ。ただ、この繁昌っぷりを見てしまったからには、一度訪問する必要はあるなと豊川は思った。
 豊川は蕎麦通とまでは言わないが、麺全般を好んでいる。ラーメン、うどん、蕎麦、パスタなどを食べ歩くのが趣味の一つ。アパートからもそれほど遠くない距離でもあるので、近いうちに訪れることになるはずだ。

 あらためて義父と落ち合う店を探した。小さな店だと言っていたので、事前に調べてもホームページなどの情報は皆無。義父からは道順と目印だけが伝えられていた。それに従って進むしかない。きょろきょろと周囲を見渡し、まずは最初の目印を見つけた。
 指定された小料理屋は細い小路を入った所にあった。入り組んでいる路地の一角にあり、普段ならば迷ってしまうような場所だが、義父から教わった目印があったので、迷うことなく到着することが出来た。小さな店だけれど、こぎれいな日本料理店らしい店構えで、清潔感に溢れた外観だ。
 暖簾をくぐると、一直線のカウンターのみで8席。一番奥の席に義父紀夫は座っていた。客は豊川と義父の二人だけだ。
「いらっしゃいませ」
 自分より少し若いであろう店主は、威勢は良くないが落ち着いた声で迎え入れてくれた。
 その声で気付いた紀夫は、軽く右手を挙げ、自分の隣に座るよう目配せをした。
 豊川は、まさに恐る恐る紀夫の右側に腰を掛けた。
「マスター。ビール一本」
「かしこまりました」
 豊川の好みを知っている紀夫は、迷うことなくオーダーしてくれた。
「怒鳴られると思って来ただろ」
 いきなり刑事特有の鋭い眼光で切り出された。
「は、はい」
「まあ、そう思うわな」
 そう言って、自分の飲んでいる日本酒のお猪口を空けた。
「おまちどうさま」
 マスターは、わざわざ席側からビールを差し出してくれた。
「この店は、生ビールは出さない主義らしくてな。悪いけど、瓶で我慢してくれ」
「申し訳ありません」
 マスターも軽い目礼で謝ってくれた。
 生ビールを好む豊川の嗜好を良く熟知した紀夫の行動だった。
「まずは乾杯だ」
 紀夫がビールを注ぎながら言った。
 豊川も空いた猪口に熱燗を注いだ。
「乾杯」
 グラスと猪口のカチリという音が短く響いた。

 互いに飲み物を口にすると、少しの時間静寂が流れた。
 自分から切り出した方がいいのか、それとも義父からの言葉を待った方がいいのか、豊川は悩んだ。
「望未はあれで意外とプライドが高いからなあ」
 正面に視線をやりながら紀夫から話し始めた。
「お前のことだ。本当は俺と母さんを目の前にして話をしたかったんだろう?」
 見抜かれていた。いや、自分のことをしっかりと理解してくれていた。そのことが無性に嬉しかった。
「親バカかもしれんが、あれはあれでお前さんのことを立てているつもりなんだよ。離婚までの流れはちらほらと聞いてるけども、望未にも大きな非があるのは間違いない。当然、お前にも仕出かした部分はある。まあ、俺からすればどっちもどっちだなと。それでも望未としては、女の自分が・・・ってのはあるんだろうな。男女平等で、男も女も関係ない時代とはいえ、女性が男に現を抜かすなんてことはご法度な世情で育ってきた世代としては、女が不倫だなんてもってのほかな話だ。俺たちは何ていうか・・・・・・古風っていうか、奥ゆかしい女性になって欲しくて育ててきたからな」
 豊川も望未の考え方は恐らくそんな感じなんだろうとは思っていた。自分が犯した間違いを棚に上げて、他人を攻撃するような独善性は持っていないのは良くわかっていた。
「すいません。それでも頭を下げに行かなければならなかったんです」
「ふっ、お前らしいな。俺も母さんもそんなことはわかっていたさ。今日の今日まで半年以上、それで苦しんでいたんだろ。母さんも心配してたよ」
 豊川は涙が滲んできたのがわかった。
「俺も長年刑事をやってて、男と女のいざこざは腐るほど見てきた。中には殺人にまで発展したケースもある。昨日まで愛し合っていた二人が、翌日には殺すほどの憎悪を抱くまで変わってしまうことなんて日常茶飯事だ。お前たち二人も、色々とあったんだろう。いや、逆に無さ過ぎた場合でもこういう結末になるか」
 ちびりちびりと熱燗をやりながら自分の経験を語りだす。
 目の前には、先付が提供される。『きぬかつぎ』『へしこ大根』『マロンサラダ』が出てきた。


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