て-6
私と啓は無言で次に来たタクシーに乗り込んで
私の部屋へと帰った。
鍵を開け、部屋の中に入った途端
啓が痛いぐらいぎゅっと私を抱きしめる。
「明日香を手放さなければいけないのかと思った」
絞り出すようなその声に
私はぎゅっと胸をつかまれたような気がした。
「啓」
「俺は明日香のためだったらどんな事も出来るよ」
「・・・・」
「でもその中で、例え明日香のためだとしても・・・
明日香を手放すのは、身を切られるより辛い」
「うん・・・」
「いつまでも、ずっとずっと俺のそばにいて」
「うん。離れないし、離さないから・・・
啓も私を離さないでっ」
そう言った途端、啓が私にキスをする。
もう二度とできないかもしれないと思ったキスをする。
ゆっくりとか、優しくとか、そんな言葉を忘れてしまったかのように
荒々しく性急なキスを繰り返した。
「明日香」
ひとしきりキスを繰り返して
私を抱きしめるとそのまま靴を脱いで私を抱き上げる。
そっと、壊れモノのように私をベッドに横たえると
止めていた息を吐き出すように大きく息を吐き出して
「良かった」
と耳元で囁いた。