い-5
「チーム内だけのパスが必要なんだ」
「・・・・」
「もう明日香はパスを4回間違えてる。5回目で凍結されるぞ」
「・・・・」
「次は正確なパスを打ちこまないと部長以外開けなくなる」
冷たくそう言って、ゆっくり私のほうに歩いてきた。
机の端に置いてあるCDを手に取り
ひらひらと裏返して寂しそうに苦笑いを浮かべる。
「ファイルの最終保存日を操作できるソフトか?」
疑問形だけど、ほぼほぼ肯定した言い方で、
私は怖くなって手が震える。
「明日香にこんな事をさせてるのは、重田さんか?」
その質問に答えられない私を立ちあがらせて
「重田さんはどこだ?」
そう冷たく私に聞いた。
「じ、自販機コーナー」
「社内にいるのか?」
怪訝そうな顔でそうつぶやいたので
「私が、一人でやるって言ったの」
その言葉に啓らしくもなく舌打ちした。
「行くぞ」
私の腕を持ったまま、自販機のところまで私を引きずるように連れて行く。
「啓・・・話を聞い・・・て」
「後でな」
その顔は私が知っているどの啓よりも怖かった。