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黒い聖母
【理想の恋愛 恋愛小説】

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射した光-2

会ってみて驚いたのはニーナだけではなかった。てっきり鉄矢のような風貌を期待していたルルの前にいる子供は、全くの金髪碧眼である。骨格まで違っている。ニーナが嫌がるとは思ったが、鉄矢は特区の説明を簡単にした。
ルルにとっては、しかし、単に珍しい現象だというしか、風貌の違いに意味はない。三人とも手を差し出し、見比べてみてルルは
「面白いね、人間て。」
と笑った。ニーナも笑った。
用意された昼食はラーメンに餃子だった。
「何の変哲もない、しかも中華か。」
おどけて言うのがわざとでなく、残念な様子の鉄矢にルルは
「だって好きなんだもん。」
「お兄ちゃん、言っとくけど、材料すごく使ってあるんだからね。」
ニーナが席に着くと三人は食べ始めた。
「あ。あたし、ラーメン食べ歩きするんだけど、これ、美味しい。ニーナちゃん、ラーメン屋さんになったら?」
ルルに言われて、ニーナは嬉しそうにほほえんだ。
食後は自然と身の上話になっていった。ルルの国の経済事情と、陸上一筋の生い立ち。頑張るけれど一番になるつもりもない今の気持ち。鉄矢の女性関係、性癖とニーナとの付き合い。学問で身を立てる抱負。そして、ニーナの家庭状況、嫌いな自分。補うように鉄矢との関係。
「明るい話が欲しくなった。お茶でも飲もうか。」
「あたしが淹れるね。」
とニーナ。
「あたし、何にも持ってこなくてごめんなさい。」
緩やかに気持ちの繋がったことが三人とも心地よく、それが満足で、人の立場に何ら意見する気も起きなかった。
「夜は三人で裸かな。」
鉄矢がそう呟くと
「今日はそういうの無し!」
ニーナが珍しく諌めてきた。続けて
「何だか汚い気がする。て言うか、もっと他にすることがある気がする。」
ニーナが淹れたのはジャスミンティーで、これもまた中華だった。
「お姉ちゃんが好きなことは何?」
「陸上・・・つまんないよね。」
笑いながらルルが答えた。
「あたしも走ろうかな。教えてくれる?」
「只でさえルルは走ってばっかなんだぞ。それに、お前、もうじき帰るだろう。」
「だって」
「やっぱり今度の大会が終わったら、会社辞めようかな。」
ルルが言った。
「国に帰る?」
「それね、鉄矢次第だよ。」
「なんで?」
「お兄ちゃん、頭ほんとにいいの? 結婚したいってお姉ちゃん、言いたいんだよ。」
「あ。」
鉄矢は、光の射す隙間が人生に出来たように感じた。今ならここから行き先を変えられると思った。
「そうしよう。学生でも良かったら。」
人生の一大事はこうもすんなりと、しかし決意一つで決まるのだと、鉄矢は開悟した気分だった。


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