ターゲット乗車に至るまで-5
「ノーノー、ジャパニーズ オンリー。宮本さんこそ、ドウ ユー スピーク イングリッシュ?」
本庄も慌てながら自分の英語力を披露した。
「オーマイガッ!アイ ドント スピーク イングリッシュ、イーザー」
2人が互いに中1レベルの英会話を交わしている内に、その白人の男が目の前まで近づいてきた。2人の横を通りすぎようとしたところで、ようやく覚悟を決めた宮本がその男に声を掛けた。
「ジャ、ジャストモーメント プリーズ」
宮本は英語圏以外ならお手上げだと思いながら、自身の数少ないボキャブラリーを使った。
「What?」
男は怪訝そうな顔をして宮本に振り返った。
「キャ、キャン ユー ヘルプミー」
「Sorry,I'm very hurry.(悪いな、急いでるんだ)」
男が宮本の頼みを断ると、そのまま横を通り過ぎようとした。
「ウェイト、ウェイト!」
慌てた宮本が、咄嗟に男の腕を掴んだ。
「What are you doing. I miss a train by your responsibility.(何しやがる。電車に乗り遅れるだろが)」
何を言ってるかわからないが、男が怒っているのは宮本にもわかった。
「ソーリーソーリー、えーとえーと、ワット タイム イズ イット」
後1分強は何としても足止めが必要だった。宮本は何とか場をつなごうとしたが、男に時間を尋ねた宮本の腕には、確りと腕時計がはめられていた。
「Do you make fun?(お前、おちょくってるのか?)」
男がそう言った途端、宮本は下からの殺気を感じた。咄嗟に両手を交差させて防御したため、男の鋭い蹴りを辛うじて防ぐことができた。
「Huh, you do it very much.(へえ、やるじゃないか)」
白人の男はニヤリと笑うと、格闘家がするような攻撃の構えをとった。
「お前、何もんだ?」
その様になる型を目にした宮本は、目を細めて相手を射抜くように見ると、手の痺れを無視して同じように構えた。
「Kill you.(死ね)」
宮本が構えた途端、男の長い足が宮本の顔面に迫ってきた。男の蹴りの凄まじさは、初めに受けたときの衝撃でわかっていたため、宮本はそれをまともに受けることなく反らした。
直ぐに引かれた足から2段、3段と攻撃が続いた。連続攻撃を辛うじて反らしたが、それによってできた隙をつかれて、手の攻撃も加わってきた。
(強い…)
宮本の手が痺れを感じていた。反らし続けてはいるが、やはりダメージは受けていた。
再び訪れた連続した蹴りの波を宮本が防ぎきったところで、男は攻撃の手を弛めて後ろに下がった。
「ふう…」
攻撃の波を辛うじて耐えた宮本は、男に悟られないように小さく息を吐いた。