投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

林檎
【純愛 恋愛小説】

林檎の最初へ 林檎 1 林檎 3 林檎の最後へ

林檎-2

「眠斗」
すぐ近くで鐘の音を聞いた。きっと時計台だ。十二時の合図だろう。しかし僕が弾かれたように目を開け、振り返ったのは、彼女の声を耳にした気がしたからだった。
いや、違う。気のせいなんかじゃなかった。僕の目の前には、確かに林檎がいた。元気な時の、明るい彼女が。
「林檎」
それに続く言葉が見つからなくて、僕は口をつぐんだ。近づけば消えてしまいそうで、それさえ出来ない。
「ありがと眠斗」
はにかむように微笑みながら、彼女が僕の頬を撫でた。暖かい。
「林檎、俺」
「メリークリスマス」
風にほどかれるように、ふっと彼女が消える。僕は目を開けた。心臓が早鐘を打った。 「林檎?」
振り返り、彼女を捜す。けれど林檎の姿はなかった。当たり前だ。この世界に彼女はもういないのだ。それなのに。さっき林檎が触れた頬を、右手でなぞる。手が止まった。かすかな、甘い香りが鼻先をかすめた。確かに、それは生クリームの香りだった。
僕は少しだけ笑うと、もう一度、クリスマスツリーに向き直り顔を上げた。真綿のような雪は降り続き、僕が流していた涙も消してくれた。
「メリークリスマス。林檎」
ぽつりと呟く。空よりもずっと向こう側の世界で、彼女が笑っている。そんな気がした


林檎の最初へ 林檎 1 林檎 3 林檎の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前