父の温もり(楽屋話2)-1
ミカがケンジに顔を向けた。「もしかしてケンジ、スーパー連射モードに入ってたわけ?」
ケンジは眉尻を下げてミカの視線を受け止め、赤くなって頭を掻いた。「そうらしい……」
修平はコーヒーを飲む手を止めて怪訝な顔をした。「何すか? その『スーパー連射モード』って」
ミカが修平に顔を向け直した。「月に一度ぐらい、ケンジの体調や気分が好調な夜、何度もイけることがあるんだよ」
「何度も?」
「そ。それこそ六回ぐらいはザラ。そこ二時間ぐらいの間に、立て続けにね。今までの最高記録は11回。ケンジが29の時だったっけか」
「へえ! すごいっすね」
「しかもずっと硬さを失わないだけじゃなくて、何度もいっぱい発射するんだ」
「人間業じゃないっすね」
「そりゃあもう、その間ずっとあたしもイかされるから、くたくたになってその後は爆睡だよ」ミカは笑った。
「そんなことが月一であるんですか?」夏輝も目を丸くした。
「あの晩は、な、夏輝ちゃんのフェラでスイッチが入ったみたいなんだよ、連射モードの……」続けてケンジは小さな声で言った。「ご、ごめんね、夏輝ちゃん……」
「とんでもない、あたしの方こそあんなに長い時間気持ちよくしてもらっちゃって、最高に嬉しかったです」夏輝はにっこりと笑った。
ミカが言った「でも修平もいつもそんな感じなんだろ?」
「確かに復活は早いですね、修平は。一晩に一度きりってことは今まで皆無です。まあ生まれつきエロいからそんなもんでしょ」
「何が生まれつきだっ!」修平が慌てて言った。
「それにね、」夏輝が修平に顔を向けた。「ケンジさんが弾ける時って、ほんとにすごい勢いなんだよ」
「ちょ、ちょっと夏輝ちゃん、何を言い出すんだ!」ケンジは真っ赤になって腰を浮かせた。
「身体の中にその衝撃が伝わるほど。しかもずっと。何度も」
「そ、そんなにすごいのか? ケンジさんって」修平が思わずカップから口を離して言った。
「身体の奥に打ちつけられるっていうか、中を思いっきり広げられて中心を狙い撃ちされるっていうか。とにかく凄まじい衝撃と快感なんだよ。もう吹っ飛ばされそうな快感」
「へえ!」
「夏輝もそう思ったか」ミカが笑いながら言った。「あたし、いつもケンジのあの勢いでさらに高まっちゃうんだ。イくレベルが一段アップする感じだね」
「そうそう。そうですよね」夏輝は目を輝かせて修平の方を向いた。「最後の6回目でさえそうなんだから。もう大変なんだよ。いつまでも眠らせてもらえない」
もはやケンジは言葉をなくして縮こまっていた。
「それにあの半端ない量。イった後の余韻を味わってる時にどんどん漏れてくるんだよ、二人の繋がった隙間から」
「繋がってるのにか?」
「うん。もう中がいっぱいになって溢れ出しちゃってた。でもその何とも言えない温かさでまた身体が熱くなっちゃう」
「夏輝ちゃんっ!」ケンジが堪らず大声を出した。「な、生々しいこと言わないでくれっ!」
「噂以上だな、ケンジさん……」修平は心底感心したように言った。
「それにしても、ケンジ、いつもと違うこと言ってたよね」ミカがおかしそうに言った。
「い、いつもと違うこと?」ケンジはおどおどしたように顔を上げ、ミカを見た。
「そう。あたしに『君の身体は病みつきになりそうだ』なんて言ったことないでしょ?」
「しょうがないだろ、あれは修平くんが書いたとかいうシナリオ通りだ」
「ほんとに一言一句間違わずに話しかけてくれてましたね、夏輝に」
「かなり照れくさかったぞ」ケンジは赤面した。
「他にもあった?」
「『僕を夢中にさせた君に、もう一度ご褒美をあげよう』とか普通言わないだろ。それに、」
「まだあるの?」
ケンジは赤い顔で修平を軽く睨みながら言った。「『君の中は、とても……心地いい』とか……」
「確かに言ったことないね、ケンジは」ミカが言った。
「でも、本当に心地よかったけど……」ケンジは小さく言ってコーヒーを口にした。
「で、具体的にどうだったの? 夏輝の抱き心地」
「な、何だよ『具体的に』って」
「やっぱり、あたしとかマユミとかとは違ってたでしょ? 相当な歳の差でもあるわけだし」
「夏輝ちゃんの身体、とっても、何て言うか……しなやかだと思ったね」
「しなやか?」
「うん。さすが元アスリート。身体の動きが、何て言うか、しなやかなんだよ」
「そうなんすね。あんまり意識しなかったな。でも、ミカさんも水泳やってたから、同じような感じじゃないんすか?」
「ミカは骨太だから、同じしなやかでも、結構どっしりしてる、っていうか、安定感があるんだ」
「何だ、その表現」ミカが呆れたように言った。
「夏輝ちゃんは、もっと『軽い』感じだったね」
「悪かったね、重くて」またミカが言った。
「いや、体の重さとかじゃなくてさ、夏輝ちゃんは、羽のようにふわっと浮く感じがする瞬間が何度かあった」
「あ、それは俺も思います」修平が身を乗り出した。「夏輝抱いてると、なんか一緒に浮き上がる感じがするんですよね」
「だよね。うん。そんな感じ」ケンジが微笑んだ。