立ち込める暗雲-5
帰宅し、私は溜まらず電話をした、と言っても相手は佐伯君ではなく。
「もしもし、優華さん?」
「……あぁ、若葉ちゃん。」
電話の声の主は優華さん、最近彼に会えず浮気を疑っている彼女。その声は何処かやつれていて、出会った頃とはまるで違い、少しばかりイメージが崩れる。
「どうしたの?」
「いや、その…。」
自分から電話しておいて、何も切りだされずにいる臆病な私。
「3月以来よね?どう、順調にやってる?」
「え、えぇ!最近は遠足行事が控えていて議長を自ら買って出て。」
「まぁ!凄いじゃない!いいなぁー遠足ー、何やるの?」
「はい、バーベキューや軽いハイキングを。」
「良いわねぇー、晴れると良いわね。」
「晴れますよ、私晴れ女ですから。」
「うふふ、そうかもね。」
……
って違う違うっ!こんな話をしたい訳じゃないのに、なーにが晴れ女だ。
「最近彼の様子、どうですか?」
「えっ?」
迷いを断ち切り、スパッと申す。
「どうって、上手くやってるわよ…、此間何かバイキングに行ったけど選んだ料理も食べ方もそっくりで思わず笑っちゃったわ。」
「そう、ですか。」
「というか…、それを一番知ってるのは他でもない貴女でしょ?」
「え…。」
「またまたぁ、どーせ今でもあたる君と電話してるんでしょ?」
「……えぇ、確かに、この前電話しました。」
「だったら私に態々電話しなくたっていいのに、あっそれとも女同士でなきゃ話せない事
?ひょっとして彼氏への愚痴とか?」
意気ようように喋る彼女、でも私はついに。
「それは、貴女の方じゃないんですか?」
「へ……?」
急に何を言い出したんだと言わんばかりにあっけにとられる彼女。
「彼から聞いたんです、お兄さん昴さんが最近帰りが遅いって。」
「……。」
「昴さんが知らない新しい腕時計を付けていて、それで、貴女がそれを別の女性から貰った物じゃないかって、浮気を疑って…、ぎくしゃくしてるんじゃないかって。」
「………。」
「彼、電話越しからとっても不安がってました、もしかしたらその騒動が悪化してやっと
青森で転校してまでして手に入れた幸せな生活も消えてしまうんではないかって。」
それは私も同じ気持ちだけど。
「お願いです!彼の前でそんな真似しないで下さいっ!貴女達がそんなんだと彼も。」
「若葉、ちゃん。」
私がこの話を切り出したから急に口数が減った彼女だが。
「ふふ、あははははははぁっ!」
何?とっても怖いんだけど。
「今どきの高校生って良く見てるのね。」
「それじゃー。」
「まぁ、昴さんが知らない腕時計を買ったのは事実よ。」
「……。」
「彼ったら「それどうしたの?」って聞いても、自分で買ったの一点張りで。」
「じゃーきっと。」
「でも安心して、私たちの仲がこじれてもあの子には不自由な思いはさせないから。」
「そんなっ!そんなの全然解決に。」
「人のプライバシーにあまりつけ込まないでくれるかしら?」
「え……。」
低いトーンで、怒った口調で私にそう言い放つ。
「あの子はただ私達に任せて甘えてれば良いの、そして貴女も私達を信用して任せてくれればいいから。」
「でも。」
「良いじゃない、あの駄目親と暮らす生活に比べればいい方で。」
「何言ってるんですかぁっ!!」
「!?」
「私は、いや私たちは貴女方を信用して、本当の意味で幸せになれると思って、それも転校までして、分かってますよね!?私と彼、離れ離れになったんですよ?彼が本当に幸せになれると思って。」
「……。」
「その話をしたお陰でもう彼と電話出来なくなって。」
「そんなの、貴女達が勝手にした事でしょ?彼を良くしてくれる人のいらんプライバシーにつけ込んで、してそうやって電話してきたかと思えば怒鳴ってきて…。」
「それは…。」
「もし貴女の言うように昴さんが本当に浮気をしていて私と彼がギクシャクしたとしたらどうするの?彼を態々連れ戻すの?そんな事出来る訳がない。」
「彼を悲しませる原因を作っておいてよくも。」
「そんなの彼が勝手に言いふらした事でしょっ!やめてよ、人を悪者みたいに…。」
私も、自分が何を言ってるのか分からない、かつて青森であんなに楽しく穏やかに付き合っていたのが嘘のようだ。きっと彼女の言うように酷い事言ってるのかも知れないでも
彼は向こうで幸せになるんだ、彼を想うともはや止める事は出来ない。
「昴さんに裏切られて、優しい彼の事、貴女を慰めようとする…でも傷ついた貴女は思わず彼に奴当たりをするんでないかと…。」
「ふっ、とんだ言いが掛かりね、そんな事する筈が。」
「可能性の話をしてるんです、そんな危険性がある以上。」
「彼が心配?でもねそんな過保護にするもんじゃないわ、男何て生き物は何時だって平気で人の心へ踏みにじるのよ、現に昴さんだって。」
「彼が浮気したなんて貴女の思い込みでしょう!?それに佐伯君はそんな事しない!」
この頃電話が嫌いになってきた、何このドロドロ感。
「はいはい分かりましたよ、じゃせいぜい気を付けるわ!じゃあねー!」
そして逃げるように通話が途絶えられた。
折角、折角彼と離れてまでして彼の幸せを願ったのに、こんな事って。
私の考えすぎならいいんだけど。
嫌な予感を抑えきれずにいる私だった。
次回、29話に続く。