〈仕打ち〉-19
(あ…亜季……)
ぼんやりとしか映らなくなっていた瞳には、あの長髪男の姿は映らなかった。
ジャージの男達も居なくなっていたし、いつの間にか愛は口に運ばれる食べ物を咀嚼していた。
『ゆっくり落ち着いて……ん?美味いだろ?』
気が付けば元の部屋に戻されており、長袖の黒いセーラー服を着させられていた。
あの鉄パイプで組まれた拘束台が取り払われた部屋は殺風景で、中心に敷かれたエアマットの上で、オヤジと二人で座って食事を摂っていたのだ。
『愛ちゃん完食〜。なあ、食べたい物があったらいつでも言いなよ?いつでも御主人様が持ってきてやっからよぉ』
皿に残ったギラついた脂で、愛はいま食べたのがエビピラフだと気づいた。
味覚はほとんど無かったし、シャワーの後の記憶は細切れになってしか残ってはいなかった。
『じゃあな。また目が覚めたら気持ち良いコトしてやるよ』
オヤジが部屋から出ていき、愛は独りぼっちにされた。
手や脚に枷は着けられていなかったし、全くの自由となっている。
これは扉の向こうであの男達が見張っているという意味を持つのだろうし、絶対に逃げられないのだという自信の表れでもあろう。
「………」
久しぶりに手足を伸ばせた愛は、ふわふわなエアマットの揺らぎに眠気を覚えた。
髪はいつの間にか乾いていたし、子宮の中以外は取り敢えず清潔を取り戻した。
変態的な仕打ちを受けてしまった幼器が、一体どうなってしまっているのかという哀しすぎる好奇心も無くはなかったが、自分から其れを確かめようとは思えなかった。
もう愛は疲労の限界であった。
極度の精神的緊張と全力での藻掻きの連続だった愛は、パタンと倒れるやたちまちに寝息を発てた。
逃げる気力すら失いかけた少女を見下ろす天井には、丸口の金具が無数に打ち付けられている。
そこに結ばれている麻縄が、ブラブラと触手のように垂れていた。
まるで眠っている少女を狙っているかのように……。