初めての朝-1
目を覚ますと、横には裸のまま寝息を立てる絵美がいた。
お互い、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
昨晩は絵美と熱い時間を共有した。日帰りの外出に付き合う予定だったのが、絵美の突拍子もない行動力で夜を共にすることになってしまった。
しかもまさかの『生ハメ中出し懇願』。一度は躊躇したものの、結局絵美の希望通り思いっきり中出しさせてもらった。
最初に中出し要望を聞いた時には耳を疑い、絵美の心中を訝しんだ瞬間もあった。けれど、絵美の顔を見ると、やましい考え方や駆け引きなどはしないだろうことが読み取れた。決心し、ことに臨んだが、射精の瞬間はそんなことなど微塵も残らず、ただただ絵美が愛おしく感じ、愛情と共に絵美の中に白い精を注ぎ込んだ。
ことが終わり、こうやってのんびりとした時間が流れていることを思えば、絵美と付き合って良かったと思える。本当に些細なキッカケだったし、絵美にとって僕の何が良くて付き合っているのかはまだまだ分かりはしないけれど、とにかく一緒にいることが心地よかった。
(しかも性欲旺盛とういうか、スケベだなんて、言うことないじゃないか)
まだ絵美のスケベな部分は垣間見ているだけの段階だけれど、かなりの好き者であるかのような振る舞いが至る所に散見された。絵美のスケベさ加減は、これからのSEXライフで徐々に暴かれていくだろう。それはそれで楽しみである。
時計に目をやると、時刻は2時を少し回ったところ。この幸せなまま、もうひと眠りしよう。
次に目が覚めたのは、5時30分前。
相変わらず絵美はぐっすり寝ている。口をポカンと開けたまま、口元にはヨダレが垂れ、成人女子とは思えない、子どもの様なあどけない表情の寝顔だ。
このだらしないとも不細工とも言える寝顔を「カワイイ」と思えるか否かが、男女の仲を左右すると言ってもいいだろう。
中には、普段とはギャップがあり過ぎる寝顔を、「残念」「幻滅」と受け止め、悲しい気分で付き合い続ける男もいるかもしれない。
ともすれば、この幻滅があまりにも大きすぎると別れてしまうことになるんだろう。
僕の場合は、このちょっとだらしない顔も絵美の「カワイイ」部分だと思っている。だから、何の躊躇いも、幻滅も無く普通に付き合っていけると思う。
などと、絵美の顔を見ながらひとりニヤニヤとしていると、視線に気付いたのか、雰囲気に気付いたのか、絵美が目を覚ました。
「キャッ」
数秒、寝ぼけ眼で状況を把握できていなかったようだが、我に返り寝顔を見られたことに気付いたらしい。
「もぉ〜、寝顔見てたでしょぉ、恥ずかしぃ〜」
すぐに毛布で顔を覆ってしまった。
「大丈夫。全然カワイイよ。涎垂らしてたけど」
ゴソゴソと毛布の中で音がする。どうやら口元を確認しているようだ。
「えーー信じらんない。もぉっ最っ低」
僕は、冗談ではなく、子どものように無防備な寝顔がカワイイと素直に言っただけなのだが、どうやら絵美は、ブサイクな寝顔をいじられた(悪意のあるカワイイ)と勘違いしている。
「本当だよ。茶化してるわけじゃないって」
「知らないっ」
本気で怒っているのか!?
少し間が空くと、絵美はもぞもぞと毛布の中から顔だけのぞかせた。
「けっこう垂れてた?」
「ちょっとだけだよ。ダラーっじゃなくてタラーって感じ」
「ほんっとに恥ずかしい」
絵美の顔には失敗した感が溢れ出ている。
「人間寝てる時は何から何までコントロールするなんて出来ないんだから仕方ないじゃん。それに、一緒に寝てれば遅かれ早かれいつか絶対見ちゃうタイミングが来るんだからさ」
ちょっとだけ機嫌が戻ったらしく、目元と口元が少し緩んだ。
「それって・・・これからも一緒に朝を迎えてくれるってこと!?」
「ん!?そうだよ。つーか付き合ってれば普通じゃないの?でも、お泊り無理なら厳しいけど」
「うぅん、全っ然大丈夫。うちの親はお泊りNGじゃないから。むしろ娘の恋愛話には積極的な方だし」
放任主義な家庭だと言うことか。
(つまり、過去の男たちともバンバンお泊りしていたってことなんだろうな・・・)
また、余計なことを思ってしまった。
「これからも私をいっぱい連れ出してね」
そう言って毛布から上半身を抜け出し、僕の側に寄ってきて頬にチュッとしてくれた。
僕もお返しに絵美の頬にチュッとした。
「フフフッ・・・嬉しぃ」
ようやく笑みがこぼれた。
「本当はね、ドッキドキだったんだ。自分からエッチなお願いしちゃったし、引かれたらどうしようかなって。でもね、退院したら会う時間って減っちゃうじゃない。そうしたら、もしかすると気持ちも離れちゃうんじゃないかって、すごく焦ってた」
「・・・。気持ちはわかるよ。付き合ってそんなに時間経ってないし、なんてゆうか特殊な環境中に居たわけだし、気持ちもいつもとは違っているのかもしれない」
(俺だって、絵美が退院したらと思うと、不安な部分はあるんだよ)
言葉には出さなかったけれど、僕も同様の不安が無かったわけではない。
普段の生活に戻った時、ふと、あれは幻だったんじゃないだろうかとか、テンション上がってて興味本位だったとか、寂しくて・・・などなど、正気に戻ると案外『何故付き合ったんだろう』と思う瞬間が来るかもしれない。
そんなことはなくリアルな愛情だということの証明が欲しかったんだろう。
いじらしい絵美の行動が嬉しかった。
「変なお願いもしちゃったし・・・」
「うわっ!!!って思ったよ」
「だよね〜。でも絶対嘘なんかじゃないから安心してね。そんなことで引き止めたって意味ないから・・・」
絵美も『中出し』が二人の関係が長く続く最良手段でないことは重々承知しているようだ。逆に爆弾になり兼ねなかった行動だったということも理解していると思う。