さよなら、愛しい人…-1
「これはぁー、うん、こっちの方が良いね。」
キャベツを両手に持ち、何故か小さい方をカゴに入れる。
「えっ、そっちの方が大きいじゃん。」
「そっちのは色合いがイマイチで形もあまり芳しくないの、量も大事だけどやっぱり一番は新鮮である事よ。」
普段、彼女のお爺さんの為に買い出しに料理に洗濯、と家事全般をこなす彼女、故にもはや恒例?と化した俺の私生活の為に始めた彼女との買い出しも主婦の如くキビキビと良い
品を選んでくれる。
「佐伯君。」
「ん?」
「これは君の為の買い出し何だからね、だから私にばかり頼らないでちゃんと考えて下さいね。」
「へーい。」
彼女の想いとは裏腹に俺の為にせっせとカゴを動かしスタスタ移動する彼女を長い目で見つめ楽しむ俺。
「此間、君の冷蔵庫を拝見させて頂きましたが、あれは少々頂けませんわ。」
「おう?」
「唐揚げハンバーグチキンナゲット、ほとんどお肉ばかり、しかも全部冷凍食品、あれじゃー体力がつきませんわ、しっかりと栄養も取らないと…。」
「男の買い出し何てこんなもんじゃね?」
「駄目ですっ!ちゃんと栄養つけるっ!」
急に大声出す彼女、やんちゃし過ぎたか…。
「マグロのお客様ー!」
「あっ、はーい!」
買ったお魚を刺身にし、お客に提供する板前風の店員。そのマグロはバラバラに。もしこれが柊さんではなく、巴だったら俺は今頃あのマグロのように…。
「料理、出来るようになった方が良いですよ。」
「いやいい、飯なんか喰りゃ良いんだから、前みたいにその場しのぎの弁当に比べりゃーだいぶマシになったし、それに…。」
「それに?」
「君が作ってくれれば良いだろう?将来…。」
と、カゴを押す彼女の手の甲に自分の手の平をそっと乗せる。
「……。」
呆れてるのか?口をポカーンと開け、俺を見る。
「今は一人ですし、この先も分かりませんからしっかり身につけて下さい。」
「柊、さん。」
失言だったか、少し雲行きが怪しくなるが。
「そうだな、俺、ちょっと甘えてたかも…。」
「佐伯、君。」
他力本願ですぐ調子に乗って人に甘えるのは俺の悪い癖だな。
「それじゃーさ、料理…教えてよ、時間がある時で良いからさ。」
「も、勿論ですっ!私何かで宜しければ!」
急に立場が逆に、つーか元に戻ったか。とても嬉しそうな彼女、勉強を教えて貰ったその
恩返しが出来る、と思ったのだろう。
さっきから母親のように俺の身を案じてくれる、俺はそんな彼女が好きだ。
だからこそ…。