言-1
翌日、直哉は朝早く私の家を出て自分の家に着替えに戻った。
私はいつもの時間に会社に着くと
廊下に来月からの異動の発表があった。
それをサーっと斜め読みして
直哉が広報に異動になったことだけ確認した。
「おはようございます」
そう言って自分の席に着けば
派遣の真実ちゃんが
「伊藤さん!青木さんが広報に異動って知ってました?」
と勢いよく飛んできた。
「らしいね。今見た」
そう答えれば、
もう真実ちゃんの関心は直哉の異動よりも
目ざとく見つけた私の指輪で。
「伊藤さん!!指輪!!!」
部に響き渡るような大声でそう言った。
その声に、引きつけられるように一斉に部の人が私を見て
そんな状況に恥ずかしくなって
はめてこなければよかった?と思ったけど
別にもらった相手が分かる訳じゃなし。
「昨日の誕生日に、彼にもらっちゃった」
と、逆に見せびらかした。
彼女の興味に直哉の異動はすっかり消えて
おまけに部の中でも直哉の異動の話はすっかり聞こえなくなり
部の中の興味は一斉に私の指輪に移った。