プロローグ-1
_手にしていた書籍を棚に戻しながら、その書店の店長である涌井は下卑た笑みを浮かべた。
_強烈な媚薬―それは、男性ホルモンより抽出した、催淫性のある物質を濃縮したもので、それを嗅いだ女は、強制的に発情させられる−をしみこませた書籍を学習参考書コーナーに、何冊か配置し終えた時の事だ。
_学習参考書コーナーだけではなかった、その書店の本棚の、至る所に同様のモノは配置してある。
_それだけでもない。媚薬入りのスチームが噴霧される空気清浄機も置かれている。媚薬入りのお茶が提供される給茶機も設置されている。媚薬を用いるだけでもない。アダルトコーナー以外の本棚に紛れ込ませてある、数十冊ものアダルト向け雑誌や書籍も、「罠」の一環だ。
_「罠」が仕掛けられているのは、店舗エリアだけではない。
_店舗の奥にはバックヤードがあり、その奥には休憩室と名付けられた、応接室のような部屋があり、その隣には仮眠室と呼ばせた、休憩室とは簡易のパーテーションで区切られた、ベッドの置かれた空間がある。
_それらの全てに、様々な「罠」が仕掛けられている。
_休憩室も仮眠室も、書店利用者は自由に使って良いと、店内各所に掲示してあり、善良な客には親切な店だと思わせてはいるが、それは獲物を「罠」に導く為の餌だ。
_一体、何のための「罠」か。
_女を、犯す為の「罠」だ。
_女を、陥れる為の「罠」だ。
_その「罠」を駆使し、女を強制発情させるのだ。
_その肢体を無理矢理に、敏感にさせるのだ。
_その心を、本人の意思とは無関係に、わいせつな欲望で満たすのだ。
_その上で痴漢を仕掛けるのだ。
_快感に溺れさせ、何度も何度も絶頂を味わわせるのだ。
_媚薬と絶頂の相乗効果で、理性や羞恥心を完全に破壊するのだ。
_その後は、女の肢体を気の向くまま、もてあそぶ。気の済むまで、しゃぶり尽す。
_その為の、「罠」だ。
_究極の凌辱を実現する為の、「罠」だ。
_その書店は、「涌井書房」と店主の名を取って命名されたその書店は、一見すると何の変哲もないどこにでもありそうなその書店は、訪れた女を犯し尽くす事のみを目的に作られた書店、つまり、「痴漢の巣窟書店」なのだ。
_すべての準備を万端に整え、手ぐすねを引いて獲物を待ち構える涌井の目に、一組の客が映った。女子高生2人組だ。
_1人はすらりとした、華奢と言っていいほどスレンダーな腰つきで、艶のある黒髪、歳のわりに落ち着いた物腰の少女であり、清純、清楚、清潔、生真面目という言葉を、そのまま絵にしたような娘だ。
_もう一人は、やや小柄でロリータフェイスの、はつらつとした話し声が印象的で、ふわりとした着こなしの制服のブラウスに阻まれ分かりにくいが、実は相当にふくよかな膨らみの胸を持った、いわゆる「隠れ巨乳」タイプの娘だ。
_少し肌寒さを覚える初秋のその日に、前者は濃紺色のブレザーを羽織った冬服の装いだが、後者は元気に、半袖のブラウスのみの夏服姿だ。
_どちらも、涌井の大好物であった。
_涌井の口元が緩む。涌井の目が爛々とした輝きをたたえる。そして涌井から、決意のみなぎった言葉が漏れる。
「今回はこの娘達を、頂くとしよう。」
_しばらくの間、参考書コーナーで談笑していた女子高生2人は、会話の中での互いへの呼びかけから、玲奈と亜美という名前だと知れた。スレンダーで冬服姿なのが玲奈で、隠れ巨乳で夏服姿なのが亜美だ。
_亜美が一方的に、玲奈に抱き付いたり、腕を組んだりして、甘えん坊な様子を見せ、そんな亜美を優しく見つめる玲奈の眼差しには、奥ゆかしい母性が感じられた。「きゃはは」という亜美のおてんばな笑い声が、「うふふ」といった玲奈の落ち着いた笑い声が、書店内に響いた。2人が来る前より、店内が明るくなった気がすると、涌井は思った。
_ 2人が来店してから少しの間は、そんな感じだったが、それは長くは続かなかった。しばらくすると2人の口数が減り、いつしか無言となり、それぞれにだらしなく口元を緩め、視線を遠くにさまよわせ、ぼんやりした様子を見せるようになって来た。
「効いてきたな。」
_涌井は看破した。幾つかの書籍にしみこませた媚薬を2人が吸引し、その影響下に置かれつつあった事を。
_特に効き目が強く表れたのは、亜美の方だった。「隠れ巨乳」の夏服の娘だ。明るく清純な女子高生2人への究極の凌辱が、静かに始まりの時を迎えた。