い-6
「私、今日は遠距離の彼に当てつけで来ただけなんです。
彼女を探しているのならすみません」
「へ〜」
そんな私を見ながら、頬杖をついてカッコいい顔で笑った。
「葵ちゃんの彼氏は遠距離なんや?」
いきなり名前で呼ばれて驚いた感情を顔に出さないように相手を見つめる。
「俺は2週間本社に出張中やねん」
本社の人間じゃないのか。
通りで知らない顔のはずだ。
「残りの1週間。仕事が終わった後に横浜を案内してや」
「・・・・」
「三浦さん・・・でしたっけ?支社はどこですか?」
「神戸」
この言葉は神戸、か。
「来たことあるん?」
「いえ」
「今度案内したげるわ」
この人、どことなく直哉に似てる。
ため息をつきながら、飲んだグラスをテーブルに置こうとしたら
カチャンとお皿にグラスの端が当たって
思うようにテーブルに置けなかった上にグラスが傾いて中のワインがこぼれた。
「あ!」
思わず大きな声を出して急いでワインのこぼれた液体を紙ナフキンで追ったけど
間に合わず、少量がテーブルの下にこぼれおちた。
その先に運悪く、三浦さんの足があった。
「ごめんなさいっ」
その声にテーブルの合コンメンバーが一斉にこっちを向いたけど
三浦さんは気にする様子もなく
「ごめん。何でもないから話、続けて」
と、皆に笑いかけた。
「ごめんなさい」
赤ワインはきっとシミになる。
「イヤ。大丈夫やで」
三浦さんはそう言って店員に濡れたおしぼりをもらって軽く拭いた。
「でも・・・
これで1週間は付き合ってくれるやんな?」
そうニヤッと笑った。