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エツコとオッちゃん
【女性向け 官能小説】

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エツコとオッちゃん-3

3.
 アノレキには、決まった治療法が無い。心身症という、病気でない病気。心の病なのだ。
 国が豊かになるにつれ、発症する患者が増えてくる、文明病。貧しい国には無い。
 主として若い女性の痩せ願望に起因する、ある意味で贅沢病なのだが、患者本人にとっては生死に関わる真剣な問題で、死亡率も高い。

 1ヶ月ほどして、退院が決まった。体重がようやく最低基準値に達したのだ。
「よかったね」
「ウン、中々体重が増えないんで、検査の時、手の中に文鎮を隠しちゃった」
 人の心配を他所に、本人はけろりとしたものだ。
 週一回、精神分析医のコンサルテーションを受けていたが、イケメンのその若い医師が、片手で髪を掻き揚げる身振りを真似て、ケラケラと笑った。

 エツコが21歳の誕生日を迎えた。
 山路は、エツコを食事に誘おうと思ったが、躊躇った。今までも食事に誘ったことがあったが、何を注文しても、殆ど口にしない。ベジタリアンだからという言い訳を鵜呑みにして、疑わなかったのだが。
 退院をした今も、状況は変わらない。
 
 念のため、食事に家に来るように誘ってみた。意外にもエツコは、嬉しそうに顔をほころばせて、頷いた。

 山路には、家族は居ない。
 60歳を超える今まで、結婚をしなかった。
 何事にも几帳面で、器用で、腰の軽い山路には、炊事、洗濯、食事など、諸般のことに何の負担も感じない。
 自分で好きな料理を作って、お好みのワインで、好きな時間に、好きな音楽を聴いたり、テレビを見たりするのに、家族はむしろ煩わしい存在に思えた。

 セックスは嫌いではなかったので、これが唯一のストレスになったが、権威のある手術医で、いつも身奇麗な山路は女性看護師の憧れの的であり、女に不自由することは無かった。
 玉の腰を狙ってアタックする女も、やがて山路に結婚する気がないと分ると離れていった。

 山路は、野菜中心の手料理を作って、エツコを迎えた。
 矢張り、エツコはミネラルウオーターを飲むだけで、料理を殆ど口にしなかった。どうせ食べてもトイレで吐いてしまうのが分っているので、気にしないことにした。
 それでもエツコは終始ご機嫌で、嬉しい嬉しいを連発した。今までに、誕生祝いなどして貰ったことが無いと、心から喜んでいるようだった。



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