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ヴィーナスの思惑
【SM 官能小説】

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ヴィーナスの思惑-2

「あなたは、その人に与えられた存在となり、その人のものになる調教によって心とからだを
開くことができた…苦痛だけを欲望として。それは、あなたが正真正銘のマゾヒストというこ
となの…」そう言ったアカネさんの瞳の奥が、微かに鋭い光を孕んだような気がした。

「そうかもしれない。苦痛は、ぼくにとって限りない癒しだったと思うんだ。ぼくは、これま
であの人以外にこんな思いを感じたことはなかった。あの人の記憶を失ってから、ぼくはつき
合った女性とセックスもできなかったし、あの人を想わずしてオナニーもできなかったんだ」

「でも、あなたは私を抱いた…」と言いながら、アカネさんは限りなく澄み切った青色のカク
テルグラスを手にした。

「アカネさんには申し訳ないけど、それはとても不思議なことなんだ。あの人が、ぼくにアカ
ネさんとのセックスを命じたような気がしたんだ。」

「あなたは、わたしとセックスをするあいだもずっとその人のこと考えていたわ」
「おそらくぼくは、健康な男が抱く、異性とセックスをする快感なんてなかったかもしれない。
あの人がセックスを命じたこと自体が、ぼくにとっては意味あることだったと思っている」


アカネさんの胸元からしっとりとした白い肌がのぞいている。ミチオは靄に包まれたような肌
に、彼女の衣服の下にある肉体を無意識に想い描いていた。でも彼は十七歳のとき、あのこと
があって以来、どんな女性の肉体に対しても欲望と言えるものとはほど遠いものを感じていた。
その思いは二十歳になったときに、あの人に出会うまで続いた。

「別の意味では、ミチオくんが十七歳のとき、継母と経験したことはとても意味があったこと
ではないかしら」

「継母はとても醜悪な女性だった。でも、初めて経験した…いや、経験させられた女性だった。
それは、ぼくが女性に初めて《与えられたもの》となった意味のある経験とも言えるかもしれ
ない。それがなければぼくは、二十歳のときに出会ったあの人を、ほんとうの意味で受け入れ
ることはなかったとも言える」

「私を抱いたあなたは、ほんとうの意味で私を抱いたのかしら…」と、アカネさんは小さな笑
みを浮かべながら言った。


三か月前、こんな藍色の雨が降っている夜だった。初めて出会ったというのに、いっしょに
お酒を飲み、わずかな言葉を交わしただけで、ミチオはアカネさんを求め、彼女は彼を受けい
れた。それはとても自然な出会いであったような気がする。ただ、ミチオは彼女とのセックス
にどんな意味を見出そうとしたのか、わからなかった。

二十歳のときに出会ったあの人が女王様だったから好きになったのか、あるいは、好きになっ
た彼女が偶然にも女王様だったのか、ミチオには今でもよくわからないところがあった。

「ぼくは、おそらく一度は死んだ人間なんだ…」

「どういうことなの」
ミチオは十五年前にあの交通事故にあって以来、一切の記憶を失ったのだった。意識不明の重
体…ミチオは意識を取り戻すまで死の淵をさまよった。そして、意識を取り戻したとき、あの
人がどんな顔をしていたのか、記憶を失っていた。


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