ヴィーナスの思惑-13
血肉を抉るような淫靡で淫猥な疼きが、ひしひしとからだの奥にしみてくると貞操帯の中で
ミチオのものが痺楽の快感とも言える気だるい喘ぎ声を洩らした。それは、彼の快楽が柔らか
さと堅さを交互に含みながら肥大化し、あの人の呪縛を少しずつ性器に刻みつけていく奥深い
濃密な瞬間に違いなかった。
不意にあの人の股間が目の前に迫ってくる…。
あの人はミチオの顔に跨り、太腿の付け根を彼の唇に押しつける。窒息させるくらいに強く内
腿で頬肌を締められると、彼女に対する強い思いがミチオの背筋を走り抜ける。ミチオは眼を
潤ませ、うわ言めいた嗚咽を洩らす。彼は、あの人の繁みに覆われた肉の割れ目を唇で啜りな
がら、尿水で湿った肉唇の根元まで執拗にしゃぶり始める。彼女の顔に白い霞がかかったよう
に歪んでくる。強く押しつけられる彼女の割れ目の肉がミチオの唇を啄むように擦りあげると、
彼の中がしだいに生あたたかい樹液で潤みを増していく。 溶けるような蜜汁が舌先に溢れだし、
ミチオの唇は掻き毟られるように爛れ始めていた。潤んだ彼女の媚肉とミチオの唇の表面が、
淫猥に擦れ合う音さえ、甘く奏でられる音楽のように聞こえてくるのだった…。
それは突然のことだった…。
ごめんなさいね、燿華さん、昨日でクラブをやめたのよ…SMクラブのママが電話の先で冷や
やかに答えた。数回のプレイをあの人と交えたあと、あの人は、突然、ミチオの前から消え去
った。
ただ、ミチオの貞操帯を解く鍵だけが封書で送られてきたのだった。ミチオはあの人の行先を
あてもなく探し求めたが、彼女を探し出すことはできなかった。そして、あの日の夜も彼は
ずっとあの人を探し求めていた。彼女が以前乗っていた電車に乗り、駅のホームを見渡し、街
の雑踏の中に混じり、路地をすり抜けて、彼女の像にすがるように探し続けていた。
そして、偶然にも繁華街の裏通りで見かけたあの人…。
ミチオが声をかける隙もなく、すっとあの人に寄り添ってきた男がいた。背の高い、憂いに充
ちた碧い目をした口髭の男だった。肩の肉ががっしりとしたその男は、象牙色の優雅な首筋と
ゆるやかで広い肉感のある胸郭、強靭な腕、滑らかな背中の筋肉、引き締まった胴体と腰つき、
そして、粗野でありながら何よりも凛々しい顔をした美しさをもった男だった。彼の様相から
漂ってくるすべてのものが、ミチオとはかけ離れていた。
男があの人の腰に手をまわしたとき、彼はあの人にとって特別な男だと思った。ミチオは咽喉
の烈しい渇きとともに、男に対して、臓腑がよじれるような嫉妬と劣等感を感じたのは間違い
なかった。なぜなら、彼のすべてがあの人にふさわしいものであるような気がしたからだった。
いや、あの人が彼のものであるという思いが、ミチオを苦痛ともいえる焦燥と自虐への妄想へ
と煽りたてた。
そして、ふたりは睦ましく肩を寄せ合い、雑沓の中へ溶けるように消えていったのだった。
ミチオは夢中でふたりのあとを追いかけた。人混みをすり抜け、歓楽街を通り抜け、人通りの
ない裏通りに入り込んだふたりが入ったところは、薄明りの灯った目立たないホテルだった。