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痴漢専用車両へようこそ
【痴漢/痴女 官能小説】

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星司の帰国。そして…-6

「そうだよ、さっきは陽子にも内緒にしてたって言ったけど、陽子には気付かれていた。だから出発の前に、こうして親友として会いに来てくれたんだよ」

陽子の思ったとおり、驚く悠子の後ろから陽子の愛する男の声が答えた。

「バカ!そんなんじゃないわよ!最後に2人に文句を言いにきただけなんだからね」

真っ赤になった陽子が反論した。

「陽子ちゃん、ごめんなさい。あたしやっぱり星司くんのことが大好きなの。この気持ちだけは陽子ちゃんにだって負けたくない」

星司の声を聞いた悠子の瞳に力が込められていた。きっぱりと言った悠子に、昨日の弱さは見られず、これからの星司との暮らしに対する覚悟が感じ取れた。

(そうよ、それでいい…)

陽子の知る悠子は、他者に気遣い、自分が傷つくばかりの弱い女だった。そんな悠子に少しでも自分の意思を言わしめたことで、この場に来た意味が有ったと陽子は思った。

しかし、それとは別の複雑な思いで心がざわついていた。陽子はその思いを振り切るように、ぎゅっと目を閉じたが、それが却って陽子の目頭を熱くした。それが涙となって零れ落ちる前に、陽子は親友として伝えたい言葉があった。

(まだ、泣けない…)

陽子は目を見開いた。

「バカ悠子!そんなことは、昔っからからわかってるわよ!戯言を言う暇があったら、とっととどっかに行って幸せになってみなさいよ」

「陽子ちゃん…」

「もう顔も見たくないわ。早く行きなさいよ」

「で、でも…」

親友の不器用な気遣いが悠子の心に沁みてきた。それを知りながら、直ぐに行けるものではない。しかし、躊躇する悠子に対して、少し眉間に皺を寄せた星司が促した。

「陽子の言う通りに早くした方が良さそうだな。爺さんが動き出したみたいだ」

星司の言葉に陽子がハッとなった。

「バカ!ならさっさとこの女を連れて行きなさ…」

その言葉が終わらない内に、星司が陽子を優しく抱擁した。

「来てくれてありがとう、陽子」

「バ、バカ、恋人の前で何してんのよ」

ドキリとした陽子は慌てて星司を突き放した。

「も、もういいから行きなさい」

動揺を隠すように、悠子に向かって言った。

「でも…」

しかし、躊躇した悠子は中々去ろうとしなかった。

「もうっ!イライラするわね!そこどきなさい!」

業を煮やした陽子は、扉の前でマゴマゴしていた悠子と星司を廊下に押し退けると、スーツケースを部屋の外に放り出した。

「あたしはあんたが捨てた部屋で、あんたが堪えられないくらいの悪口を言うんだからね!聞きたくなかったら早くここから出てけー!」

陽子はそれを言い切ると、勢いよく扉を締めた。

視界から2人の姿が見えなくなった途端、陽子の中の張り詰めたものが一気に弛んだ。

(ううっ…)

力の抜けたようにその場に膝まづいた陽子だったが、それでも親友を気遣い、泣き声が外に漏れないように口を手で押さえた。

「陽子ちゃん、会いに来てくれてありがとう」

扉の向こうから親友の震える声が聞こえた。

「ま、まだ居たの!このグズ女!早く出てけー!」

扉に向かって罵声を浴びせた陽子は、何も聴こえないように、耳を塞いで踞った。しばらく扉の外で何か言っている気配はあったが、耳を塞ぐ手に力を込めてそれを拒絶し、ドックン、ドックンと、自分の血流の流れが鼓膜に響く音に集中した。

しばらくして、扉の外に意識を向けると、2人の気配は無くなっていた。もう我慢しなくてもよかった。陽子は溜まっていたものを吐きだすように声を上げて泣いた。

わんわんと子供のように泣きながら、心の中では星司の自分勝手な行為を詰り、いつまでも引き摺る悠子の弱さを責めたてた。しかし、その一方では2人の幸せを願っていた。



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