私だけの裕太-1
翌朝、相も変わらずクラスの女子から、ノートをダシにマッサージをせがまれている裕太。
もう羨ましいだなんて思わない。ちゃんと頼めばまた、裕太は私にもしてくれるのだから。
でも、代わりに昨日までは思いもしなかった、この疎ましい感情はなんだろう。私以外の誰かを気持ちよくしている裕太を見ていると、なんだかもやもやして落ち着かない。
「ねえ裕太?肩だけじゃなくてさ、全身マッサージとか出来ないの?」
ふと、そんな言葉を投げかける女生徒に、クラスの女子たちが興味津々な様子で耳を傾ける。
「ん?出来るよ?」
「ウソ!?んじゃ今度私にもそれやってよ?お願い!なんでもするからさ」
なんて素直な子。私もああやって簡単に告げる事が出来たなら、こんな気持ちになんてならなかったのだろうか。
湧き上がる黒い気持ち。わかってる、裕太はみんなのものだ。たとえ幼馴染みだからと言えども、私ひとりが独占するなんて出来るわけが――。
「悪いな!それは桜だけの特権だから…… 桜の了解無しにはしてやれないんだわ」
突然、悪びれる様子もなく、しれっとそんな言葉を吐き捨てる裕太。
静まり返った教室。クラスの女子たちからいっせいに視線を注がれ、思わず頬を赤らめる私。
そんな私を見て何を思ったのか、まるでつられるように、皆もまたいっせいに頬を赤らめてしまった。
「や、やだっ!みんな、なに想像してるのっ? ちょ、違うってばっ」
ぞろぞろと私のもとに集まって来ては、キャーキャーと囃し立てるクラスの女子たち。私は顔を真っ赤にして必死で弁明するけれど、もはや何も答えられないくらいすっかり気が動転してしまっている。
「ゆ、裕太!あんた何言って……」
「うん?なら、いいのか?俺がこいつらに――してやっても?」
意地悪い言葉。やっぱり裕太には、私の考えている事なんて、もはやすべてお見通しみたいだ。
「そ、そんなの…… だ、ダメに決まってるでしょ!」
私の言葉にクラスの女子たちが、いっそう頬を赤らめる。
「なになに?やっぱり裕太と桜ってそういう関係だったの?」
「怪しいと思ってたのよねぇ」
「全身マッサージってどんななの?もしかして…… キャー!エッチ!」
まるで尋問でもするように、好き勝手言ってくる女子達。けれど怒っている様子はなく、むしろ祝福されているような不思議な反応に、どうにも私は戸惑いを隠せない。
あたふたしながら対応に追われる私を、遠くから裕太が、相変わらずの意地悪い顔で笑って見ている。
いったい何を考えているのやら。私には裕太の気持ちが、いまだによくわからない。
特別扱いしてくれるのは私が幼馴染みだから?それともまた別の感情?
揺れ動く気持ちに踊らされ、どこまで素直に喜んでいいのかわからない。けれど、少なからず私は今日、どうやらみんなの裕太を、恐れ多くも独り占めする宣言してしまったみたいだ。