喜びより悦びを求めて-3
「……桜?気持ち……いいか?」
耳元で囁く裕太の言葉に、私は唇を噛みしめながら黙ってコクリと頷いた。
どういう意味だろう。もちろんマッサージとしての意味だよね?でも、なんだかやっぱり、すべてを見透かされているような気がして、どうにも心許ない。
「考えてみれば桜が喜んでくれるからなんだよな……」
「……え?」
「桜が気持ちいいって言ってくれるのが嬉しくてさ、いつのまにか生き甲斐みたいになっちゃって……」
「そ、そう……なんだ?」
なんとなくわかってはいたけれど、言葉にしてもらうとかなり嬉しい。でも、その気持ちが純粋であればあるほどに、なんだか私の胸は張り裂けそうなくらい痛くなる。
「ご、ごめんね?」
「うん?」
「や、なんかその……」
「なんだよ、別に謝る事じゃないだろ?おかげで人様にも誇れるくらいの腕前になったしな!」
なんて戯けてみせる裕太に、私は泣きそうな顔で首を横に振った。
違う、そうじゃない。きっかけはどうであれ裕太のマッサージは絶品。それは誰よりも私がこの身をもって知っている事実。そうじゃなくて、むしろその純粋なまでの努力の成果に私は……
「き、気持ち……いいの」
「そりゃなにより!」
「や、だからそうじゃなくてそのっ」
小刻みに震える体、いつのまにか荒ぶり止まぬ吐息、昂ぶる感情と高鳴る鼓動に頭がどこか真っ白になる。
私はうつむいたまま、そっと裕太の手を握り締めると、ゆっくりと導くように、その手を下半身へと移動させた。
「お、おいっ?おま、そこは……」
慌てる裕太をよそに、私は唇を噛みしめたまま、いいからと言わんばかりに無言で首を横に振った。
「ゆ、裕太のマッサージはね、すごく気持ちいい、よ?」
「お、おうっ」
「で、でもねっ でも、気持ち良すぎて私…… 本当はいつも――こんなになっちゃってたの」
そう言って再び裕太の手をきつく握り締めると、私は両脚を開きながら、意を決して、恐る恐るその手を濡れた股間へと当てがわせた。
「わ、わかる?これ……オイルじゃないんだよ?」
私は苦笑いしながら必死で言葉を紡いだ。
「ごめんね?私、いつも裕太にマッサージされながら…… ずっとエッチな気分になってたのっ もっと触られたいのに、もっと気持ち良くなりたいのにって…… いつもエッチな事ばかり考えていたんだ……」
恥ずかしい。顔から火が出そうなくらい熱い。打ち明けるつもりなんてなかったのに、裕太はただ純粋に私を喜ばせようとしてくれていただけなのに、その喜び以上に私は、抑えきれない欲望に負け、もはや隠しきれないほどに悦びを求めてしまっていた。
ゆっくりと顔を上げ、覗き込むように裕太に視線を向ける私。案の定、裕太は困った様子で頬を赤らめている。
あたりまえだ。こんな事をいきなり言われたら、誰だってどんな反応をしていいのか困惑して対処に困る。
沈黙が重い。まるで時間が止まっているみたい。けれど、その沈黙を破ったのは、他ならぬ裕太の――魔法の指先だった。