幼き記憶-1
家に帰るや私は食事を済ませ、すぐさまシャワーを浴びた。
シャンプーを二度して、体の隅々までいつもより入念に洗って、マッサージされるだけなのにいったい何を考えているのやら。
別におかしな事を期待しているわけじゃない。あくまでもこれは礼儀の範疇。なんて自分に言い聞かせながらも、頭の中は相変わらずよからぬ想像でいっぱいだ。
そもそも、裕太がマッサージに目覚めたのは、他ならぬ私のせいだろう。
幼い頃、父にマッサージをしてもらっている母の姿を見て、羨ましく思った私が、しつこく裕太にせがんだのがすべての切っ掛け。
最初は裕太も加減がわからず、随分と苦労していたみたいだけれど、慣れてくるに従いその腕前はめきめき上達、気がつけば私たちは、お医者さんごっこさながら整体師ごっこばかりするようになっていた。
肩のみならず腰に背中に、全身を揉みほぐすのがさも当たり前だと思っていたあの頃。さすがに膨らみかけた胸を揉まれた時は幼心に恥ずかしさを覚えたけれど、真剣な眼差しの裕太を見てると、むしろ恥ずかしがる自分が滑稽に思えてしまうくらいだった。
けれど、そんな日々が続く中、徐々に私の体には、いつもと違う感覚が芽生えはじめていた。
マッサージの気持ちよさとは違う、裕太に触れられるたび、体が熱くなって妙に落ち着かない。痛みともくすぐったさとも違う、気持ちよさを超えた何とも言い難いもどかしさ。
女であるが故、裕太よりも少しだけ早く思春期を迎えていた私は、すぐにそれが性的なものだと理解した。
もちろん裕太はそんな私に気づく様子はない。いつだって真剣に、健気なまでにただ私を気持ち良くしようと、マッサージしてくれているだけ。
そんな裕太を見ていたら、よこしまな気分になる自分が妙に恥ずかしくて愚かしくて、結局、言うに言えないまま、いつもされるがままにその身を委ねていた。
性的な刺激だと理解しながら、体が火照りエッチな気分になるとわかっていながら、何食わぬ顔で裕太にマッサージしてもらう私。
さながら全身を愛撫されているような感覚に酔いしれながら、裕太の手を、その魔法の指を、独り占めしている事に優越感さえ抱いていた気がする。
思えば私が自慰行為に目覚めたのも、ちょうどこの頃だ。
ほぐされた肉体とは裏腹に、熱く疼き止まぬ陰部。さすがにそんな場所までマッサージしてもらうわけにはいかないから、必然的に自らの指でその身を慰める術を知ってしまったみたいだ。
もしも裕太の指でされたら、いったい私はどうなってしまうのだろう。言い知れぬ快楽に溺れ、未だ知らぬ絶頂へと導かれてしまうのだろうか。
なんて事を考えながら私は、いつからか裕太にマッサージをしてもらった後には、必ずと言っていいほどに、ひとしきり自分の指で、火照る体を慰めるクセがついてしまっていた。
だからか、裕太にマッサージされるのは嬉しい反面どこか恥ずかしい。
そんな私を見透かされてやいないか、気持ち良くなりすぎて自制が効かなくなってしまわないか、
いつの日かマッサージだけでは飽きたらず、裕太に辱めをお願いしてしまいそうな自分が――怖いのだ。