みんなの裕太-2
放課後、友人たちとの雑談を終え、鞄を取りに教室へと立ち寄ると、ひとりぐったりと疲れ果てた様子で机に突っ伏する裕太を見かけた。
私はキョロキョロと周りを見渡し、誰もいない事を確認すると、裕太の前の席に腰掛け、お疲れ様とばかりに、髪をくしゃくしゃと撫でまわした。
「んあ?なんだ……桜か?」
「あは、ごめん!起こしちゃった?」
普段は恥ずかしがって苗字で呼ぶクセに、二人きりの時は昔と変わらず私を名前で呼んでくれる裕太。何気ない事だけれど、どこか特別扱いされてるみたいで嬉しい。
「ふあ……っ どうした?もしかしてオマエも……肩凝ってるのか?」
大きな欠伸をしながら、寝ぼけ眼を擦りながら、突然、裕太の大きな手の平が私の肩に触れる。
「や、ちが…… あんっ」
溜息と共に体の力が抜け落ちる。
「なんだこれ?ガチガチじゃねぇか!?ちょっと後ろ向いてみ?」
そう言って裕太は体を起こし上げるや私を反転させると、まるで目が覚めたとばかりに真剣な眼差しで私の肩を揉みはじめた。
「ちょ、別にそんなつもりじゃ…… あ、んやっ んっ はあぁ……んっ」
はしたない声。まるで待ちわびていたみたいで恥ずかしい。
マッサージされるのは嬉しいけれど、こんな場所で本気になられたら困る。
だって、ただでさえ気持ちいいのに、私にとって裕太に触れられるという事実がどれほど気持ちいいのかなんて、きっと裕太は知る由もないから……
「駄目だなこりゃ…… やっぱおっぱいでかいから肩凝りやすいのかな?」
「う、うるさいっ ほっといてよ」
確かに私は人より胸が大きい。どころか女のクセにやたらと長身で、いつも隠れるように背中を丸めている。
昔から注意はされていた。でも、小学生の頃、男子にからかわれて以来、悪目立ちするのが嫌で、自分でもよくないとわかっていながらも、猫背でいるのがクセになってしまっているのだ。
「そういやこうして桜の肩揉むのも……随分と久しぶり……だな?」
「そ、そうだ……ね あんっ」
ホント久しぶりだ。昔はそれこそ毎日のようにしてもらっていたのに、最近はこうして会話すらする機会もなかったから、肩はおろか全身が軋むくらい堅くなっているのが自分でもわかる。
「くっ このっ 堅てぇなっ」
「そ、そう?ごめ…… はんっ」
「なんで……こんななるまでほっとくかな…… ちゃんと言えよ?」
「だって…… ん、はぁ……っ」
言えるわけない。だって裕太はみんなの裕太なんだもの。幼馴染みだからって甘えて特別扱いしてもらうだなんて、出来るものならとっくにしてる。
「ああクソ!こんなんじゃ埒あかねぇ!今晩ウチに来いよ?久しぶりに立てないくらい体中ぐにゃぐにゃにしてやるからさ」
「……へ?な、なに言って…… ウチ来いって…… えぇっ!?」
突然の事に驚くよりも先に、立てないくらいだなんて言葉に、思わず頬を赤らめてしまう私。
もちろん裕太に他意はない。私が勝手に色々思い出して、いかがわしい想像をしてしまっているだけだ。
「や、でもっ……そんな……」
「なんだ、用事でもあるのか?」
「よ、用事は別に無い、けど……」
「なんならこのまま帰りに寄るか?」
「や、帰りはそのっ ど、どうせなら寝る前がいい、かな……?」
「おっけ!適当な時間に来いよ?」
「わ、わかった…… 行く、ね」
思わず話の流れにのせられ了承してしまう私。
いや、別にマッサージをされるのは全然いいのだけれど、裕太の家で本格的にだなんて、随分と久しぶりの事でなんか照れ臭い。
それよりなにより、気持ち良くなりすぎて、また、今夜もおかしな気分になってしまうんじゃないか、むしろそっちの方が心配だ。
「んじゃまた後で、な?」
「う、うんっ」
そう言って裕太は立ち上がると、鞄を手に取りひとり教室を後にした。
二人でいるのを誰かに見られたら変に勘ぐられるから、裕太なりに気をつかってくれたのだろうけれど、一緒に帰りたかっただなんて思うのは高望みしすぎだろうか?
いや、そんな事より私も、早く帰ってシャワーを浴びなきゃ。
なによりすでにとんでもない事になっているこの下着をはやく履き替えなきゃ――どうにも落ち着かない。