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「いや、来ないで」
子機をカウンターに放り出すと、佐枝子は逃げようとした。が、刑事に手首を掴まれあっさりと捕らえられた。
「だ、誰か……!!」
大きな手で口を押さえられ声が出ない。
「落ち着いてください。捜査の邪魔をしないで欲しいな。騒がなきゃ、乱暴な真似はしませんよ。わかりますか?」
佐枝子は涙目で頷いた。
刑事は佐枝子の口を塞いだままソファに座らせた。呼吸が荒くなり、佐枝子の胸が大きく上下した。
「静かにしててもらわないと私も困るんですよ」
「わかったから……何も、しないで」
「言ったでしょう。静かにしててくれれば乱暴はしません」
そう言うと、空いた手で上着の内ポケットから小さな瓶を出した。茶色の液体が入っている。佐枝子はごくりと喉を動かした。
その液体は何?何をするつもり?涙を浮かべて首を振った。
「奥さんは酒が飲めない、ですよね?」
頷く。
「ただね、酒には鎮静効果もあるんです。少量ならね」
親指と人差し指でくるくるとキャップをはずした。キャップはころんと落ち、佐枝子の膝に当たってカーペットに落ちた。
「飲んで」
首を振る。少しの酒でも酔ってしまうのだ。塞いだ手を離し、すかさず瓶を佐枝子の口にねじ込んだ。そのまま顔を仰向けにさせ、アルコールを流し込んだ。
「ううっ」
吐き出そうとする間もなく、手で塞がれ飲み込んでしまった。
体が熱い。
喉が焼けるようだ。頭がくらくらして、立っているのか座っているのかもわからない。
「奥さん。旦那が帰って来るのは何時です?」
9時くらい。答えようとしても声が出ない。やっとの思いで目を開けると天井がぐるぐる回っていた。吐く息が酒臭く、気分が悪い。
「何時ですか?もう8時半ですよ。いつもこんな時間?」
頷いているつもりだが、首を少し動かずだけで部屋がぐらりと揺れる。
「きれいですよ、奥さん」
男の顔が近づき、唇を吸われた。舌が強引に歯を割って入り込み、佐枝子の舌を絡めながら口の中でうごめいた。
やめて。
声が出ない。
「柔らかい唇だ。旦那はいつもこれを自由にしてるんですか?」
そう言いながら乳房を撫で回した。
「張りのあるいい胸ですね。島村佐枝子さん」
佐枝子はゆっくりと刑事を見た。なぜこの男は自分の名前を知っているのか。警察はそこまで調べているのだろうか。
いや、警察がこんなことをするわけが……。
刑事はぐったりした佐枝子からニットを剥ぎ取るように脱がせた。