落書き犯の正体-2
馴染みのラーメン店、客は俺らを除いて1、2名と比較的ガラガラだ。
「俺、やっぱ札幌に残るわ、兄貴の誘いにはのらない。」
「……え?」
麺を挟む割り箸を持つ手をピタッと止め、こちらに視線を向ける蓮。
「それって、彼女柊さんと別れたくないから。」
「まぁそうだが、…何より彼女を悲しませたくない。」
「あたる…。」
そうなれば彼女は独りぼっちだ、そりゃー最近友達も出来て、巴や蓮だって居る、ダガ
別にそういう事じゃない。
「俺が居なくなって、教室でポツンと別のカップルを眺める彼女を想像するだけで…、胸が締め付けられる、自分が生活を豊かにしたい、そんな事のせいで。」
俺らの心情に関わらず、ラーメンは湯気をたつ。
「そんな事って、大事な事じゃん、あのままだったらあたる…壊れちゃうよ。」
コイツの言う事は最もだ、親父がまたいつ人様に迷惑を掛けるか、あの時は傷害事件程度
で済んだが、今度は事故とか、若しくはアイツのバックに変な薬物でも入ってたら。
家にだって今でも帰りたくない、酒臭い部屋暗い部屋、連の家から帰る時の憂鬱感は
ハンパない、だから大した事ないって言ったら嘘になる。
「でもっ!親父がどうなるか、何て怖くも何ともない!怖いのは俺のせいで柊さんが
俺の大好きな人が傷ついて寂しい思いをする方が何よりも怖い!」
「……。」
「なぁに、兄貴が最初っから来なかった…そう思えばどうって事はないさ、青森に行ったら柊さんだけじゃない、巴、それに蓮、お前にだって寂しい思いをさせてしまう。」
目を細め、俺を睨む蓮。
「…君って人は、ほんっと単細胞。」
「何だよ。」
「それつまり自分一人があの悲惨な生活さえ耐えれば皆が助かる…そういう事だよね?」
「あぁ、でも仕方ないだろ、それしか。」
「この事実聞いて柊さんや巴はどう思うだろうか、自分たちが君に離れて欲しくないからってせっかくまともな生活が出来るって言うのにそれを白紙にする何て…。」
「それは…。」
「はぁ。」
短い溜息と共にお冷をテーブルにゆっくりと置く。
「いずれにしても、柊さんには一度相談するんだよ、いいね?」
「あ、あぁ、分かった。」