光の風 〈帰還篇〉-2
目の端で男が動いたのを確認すると、カルサは左手を空にかざした。その瞬間、雨は止み、雲間から光が差し込み、空が晴れわたる。
カルサが降らせた雨と手をかざし現れた光は、彼こそが神だと言っているようだった。
おもわず男はカルサに魅入ってしまった。やがて前を歩く神から声が向けられる。
「お前、名前は?」
振り向いたカルサの顔は相変わらず無表情だった。しかし今の彼には強いオーラがあるように見える。男は戸惑いながらもカルサの質問に答えた。
「…貴未(たかみ)。」
カルサと同年代くらいの男は自らをそう名乗った。もう涙は流れてはいない。
「貴未、か。オレの名はカルサ・トルナス。今からこの国の城に案内する。」
その後、貴未は城に案内され彼が国王であり、御剣という太古の神々の末裔の一人・雷神であることを知ることになる。
これが貴未とカルサの初めての出会いだった。
今日の城はいつになく慌ただしい空気が漂っている。女官は忙しなく走り回り、声をかけるのも申し訳ないくらいだった。
リュナはそんな彼女達の姿を初めて見て圧倒されていた。
「相変わらずの忙しさだな。」
横からカルサが顔を出し、リュナに聞こえるように独り言を呟いた。リュナはカルサを見て問う。
「カルサ、一体これは何の騒ぎ?何かあったの?」
「何かあった、というよりかは何かがある、の方が正解だな。遠征に出ている軍隊が帰還するんだ。」
「軍隊が?」
話が長くなることを想定したカルサは、その場からゆっくり話ができる場所に移動するために手でリュナを促した。二人は歩きながら話を続ける。
「ちょうどリュナがくる前に出動したから、まだ知らないな。一気に今日戻ってくるんだ。」
「そうなの。だから皆お風呂とか食事とか、部屋の用意で忙しそうなのね。」
「まぁ、他にもよく食う奴が帰ってくるから余計だな。」
「じゃあ、貴未も帰ってくるのね!」
「なんでそれだけでオレって分かる訳?」
二人の会話に急に外から参加の声が上がった。聞き覚えのある声にカルサとリュナは同時に後ろを見る。
「貴未!」
深い色のジーンズに黒のTシャツ、白のラインが入ったジャージを着て、シードゥルサには無い格好でその場に立っていた。
懐かしそうに二人に近づく。二人は身体ごと貴未のほうを向いた。貴未は二人の姿を見て優しい表情になった。