光の風 〈帰還篇〉-10
《女だったことがそんなに意外?》
高らかな笑い声と共に少女は二人に吐き捨てた。二人は固まったまま動かない。少女はゆっくりとフード部分を外した。
まだ幼い顔立ち、そこにいるのは紛れもなく「少女」だった。彼女が終始見せる余裕の笑みでさえ、あどけなさがどこか残る。
「なんだって…こんな子供が…?」
「お前が魔物をここへ引き込んだんか?」
動揺する貴未をおいて、聖は核心を突こうとしていた。答えは十中八九、イエスであろう。たが聞かずにはいられない。
《私?そう思う?》
「あんま、大人おちょくんなや?」
《こわ〜い。》
茶化すように振る舞う少女と、冷静に対応する聖。お互いが視線で威圧しあっていた。どちらも譲らない。
「狙いはなんや?」
《雷神の首。》
「誰の指図や?」
《さぁ?誰だっけ。》
双方の睨み合いが続く。聖は視線を外さないまま、剣を構えた。少女は不気味にほほえむ。
《きっと帰ったら雷神に報告するんでしょ?》
思わぬ展開に聖は切りかかるのを躊躇した。黙ったまま次の言葉を待つ。少女はやさしい表情で呟いた。
《よろしく言っといて。》
「知り合いか?」
今までとは違う雰囲気に聖は問わずにはいられなかった。少女はほほ笑み、遠くを見つめながら二人に投げかけた。
《いい眺めね。直に炎に包まれるかと思うとわくわくしない?》
再び二人に顔を向けた少女は元の表情に戻っていた。その中にやさしさは、ない。
《私がこれだけで終わると思った?まさかね?》
聖は弱いが複数の気配に気付いた。各地にちらばり、いずれも集落の傍だと気付く。
「お前…。」
聖の睨みに少女は満足したかのように笑った。貴未は聖に近寄り、同じように少女を見上げる。
《頑張ってね軍人さん。》
その瞬間、少女は消えた。
「なっ!!?」
驚きのあまり思わず一歩踏み出してしまった。しかしもう近くにいないことは明白だった、すぐに二人は頭を切り替えてその場から離れる。