嘘つきレン-6
人形たちの部屋で五所川原のビデオを眺めていた。
46インチのモニターを見つめながら沸き上がってきたのは、怒りではなく、どうしようもない悲しみ。
なるほど・・・。
レンがコトリを見て驚くはずだ。
画面の中で、コトリが喘いでいる。
どこまでアイツらは似てやがるんだ。
画面の中で、五所川原に突き上げられながら苦しげに喘いでいたのは、間違いなくコトリ。
だが、どこか違う。
膨らみが違う。
身体の線が違う。
わずかだが、顔の輪郭の大きさも違っている。
当然だ。
これはコトリじゃない。
シホだ。
幾つぐらいかは、わからない。
膨らみはあるが幼い印象が強い。
メイクをしているせいで年齢がはっきりと読み取れない。
しかし、メイクでも隠しきれないあどけなさは、今も昔も変わってない。
なぜか怒りは湧かなかった。
ひたすら憐れみだけが募ってならなかった。
あいつは、いったいどれほどの地獄を生きてきたんだ。
画面に向かって手を伸ばしていた。
目の前で苦しむ憐れな少女を、腕の中にいれたくて仕方なかった。
「嘘をついてごめんね、タカ・・。」
まだ人形の部屋。
46インチモニターの前。
レンは、愁傷に顔を俯かせてもじもじしてる。
お前が悪いわけじゃねえよ・・・。
「なんで五所川原のビデオのこと、黙ってたんだよ?」
答えなど聞かなくても、薄々理由はわかっていた。
今まで見ていた五所川原のビデオはオリジナルじゃない。
コピーだ。
コイツには、どんなに強烈なプロテクトがかかっていようがコピーガードなんてものは一切通用しない。
回収される前に、レンは密かにコピーワンス以外のディスクをダビングしていたのだ。
超ド級のマニアのコイツが、せっかく手に入れたものを、みすみす手放すはずがない。
だが、内容が内容なだけに慎重に管理する必要があった。
そこに現れたコトリだ。
「うーん、別に隠すつもりじゃなかったんだけど、もしタカがあっち側のひとだったら、どうしようって思ったら怖くなっちゃって・・
ほら、ずっと会ってなかったのに、いきなりボクの所に遊びに来るようになったでしょ?
なんでだろう?ってずっと考えてたんだよね。
そしたら、あの子を連れてきたから驚いちゃった。
それで、もしかしたらタカは奴らの手先になってボクのことを調べに来てるのかもしれないって考えちゃったら怖くなっちゃって・・。
それでつい嘘ついちゃったんだよね・・・。
タカ、ほんとにアイツらとは関係ないんだよね?」
あたりめえだ・・。
ドラマの見過ぎだっつうの。
レンは、まだ挙動不審者のような怯えた目をこちらに向けていた。
コイツのいう「あっち側のひと」とは、つまり、回収に来た売り手側の人間のことを指している。
こんなビデオが存在するにも関わらず、いまだに五所川原は権勢を振るって、スキャンダルにもなっていない。
つまり、実際に回収は行われて、奴はこのビデオの抹殺に成功したわけだ。
「ほんと、怖そうなひと達だったから、バレたらどうしようってずっと怖かったんだよね。」
臆病すぎるほど臆病なコイツ。
それでもビデオを手放したくはなかった。
さすが超ド級のマニア。
「そいつらは、ここに来たのか?」
「うん・・。メールで連絡があって、業者が回収しに行きますって。」
「業者?」
「うん、でも見た目はヤクザっぽかった。」
「阿宗会の奴らか?」
「たぶん、そうだと思う。」
「どうやって回収してったんだ?」
「簡単。
パッチがあったらしくて、USBメモリーを差してビデオの入ってたHDから吸い上げてっただけ。
あとコピーワンスでディスクを作ってないかも確認してた。
プログラムが入ってて、それもわかるようになってたみたい。
そのときは、ちょっとヒヤヒヤしたけど。」
「ずいぶんと頭の良さそうなヤクザだな。」
「そうじゃないよ。」
レンがバカにするような笑みを浮かべた。
「きっと、USBを差すだけでぜんぶ出来るようにプログラムされてたんだ。
回収しに来た奴らはUSBの差し口もわからないくらいパソコンに疎い奴らだったから、たぶん使いっ走りだね。
吸い上げに成功したかどうかもわからなくて、ボクに、ちゃんと入ってるなって、何度も念を押してたもの。」
「そんな奴らが?」
「うん、これから大阪に行くみたいなこともいってたから、回収するために日本全国を飛び回ってたんじゃない?
ひとりやふたりで、できることじゃないよね。
だから、誰でもできるようなプログラムをパッチ化して、それを持たせてたんじゃないかと思うんだ。
もしかしたら、五所川原のビデオだけじゃなくて、ほかのビデオも最初から回収することを想定して、そんなプログラムを作っていたのかもね。」
なるほど・・・。