狂乱のあと-6
コトリの献身的な愛情がなかったら、きっとオレは堪えられなかった。
あの小娘がいてくれなかったら立ち直ることさえ、できなかったかもしれない。
「すぐにでも行こう。」
でも、オレにはコトリがいてくれた。
「いったい、どこへ行くんだ?」
オレには、あのおてんばで生意気だけど、なによりも大事でかけがえのない天使がいてくれたんだ。
シゲさんとは、病院で落ち合った。
シゲさんは肋骨を2本やられていた。
「だいたい奴らのアジトだって、俺たちはまだ掴んでいないんだぞ。」
大きな痛手を負った上に、なんの手がかりも得られていないシゲさんの表情に生彩はない。
「大丈夫。」
対してオレは、希望の光を見つけて意気込んでいた。
「奴らの居場所なら、わかってる。」
シゲさんに向かって、自信満々に言い切った。
「わかってるって、お前・・・。」
そうさ・・、オレにはコトリがいてくれて、あのやんちゃなおてんば娘がしっかりと見つけてくれたんだ。
『これ・・・なに?』
朝になって、実家へ向かうためにベッドから出ようとしたときだった。
ベッドの下に転がっていたオレのシャツをコトリが拾ってくれた。
甲斐甲斐しく奥様気取りでオレにそのシャツを着せようとしたところでコトリがシャツの胸ポケットに一枚のメモ紙が入っているのに気がついた。
そんな紙切れにオレは覚えがなかった。
紙片に書かれた文字を目で追った。
どうやらどこかの住所のようだった。
都道府県名は、青森から始まっていた。
これは・・・。
どうしてこんなものがポケットの中に入っていたのかわからなかった。
考えているうちに、ふと、思い出したことがあった。
そういえば、夕べナイフ野郎と闘っていたとき、奴が軽く胸を突いてきた。
ナイフの切っ先を腹に押し当てていたにも関わらず、奴は軽く胸を突いただけで、刺してこなかった。
あのときだ・・・。
確証はなかった。
だが、確信はあった。
おそらくこの住所は、シホの連れ去られた場所を示しているのに違いない。
思えば、あのナイフ野郎は初めから妙だった。
闘う意志がまるで見られなかった。
シホとコトリを奪うのが目的だったはずなのに、奴はそれをしようとしなかった。
きっと、なにか事情があったのだ。
罠とは思わなかった。
オレたちをわざわざ向こうにおびき出す理由がない。
だとすれば、これはシホのいる場所を示していて、それはつまり、奴らのアジトを教えていることになる。