狂乱の夜-27
視界から外したわけじゃない。ずっと目の端に捕らえてはいた。
意識が、ほんのわずかシノちゃんたちに向いてしまった。
そのほんのわずかの隙を、奴は見逃さなかったのだ。
一瞬覚悟した。
「タカぁ!!!!!」
そのとき、いきなり空から降ってきたコトリ。
なんだお前!
どっから湧いて出た!
救いの女神登場!!
しかし、ナイフ使いのほうがコトリの落下よりも一瞬早かった。
まったく動じる様子のなかったあの野郎。
トン、とバックステップしながら伸ばした右腕で、オレの胸を突いてきた。
やられた!
え?
オレの胸の上にコトリが落ちてくる。
体を真横にしたままで、その落ち方は、まさしくフライングボディアタック。
「おわっ!!!」
受け止めるのが精一杯で、思わずこけていた。
「大丈夫か、コトリ!?」
柔らかい体が腕の中。
「うん♪」
愛らしい笑みに思わずホッとするも、今は戦闘の真っ最中。
こんな所を襲われたらひとたまりもない。
コトリを腕に抱えたまま、視線を周囲に走らせた。
意外なことに、ナイフ使いは、こちらの様子を遠巻きに眺めていただけだった。
「ママ!!!」
ナイフ使いの後ろで意識を失っているシホにコトリが気付いた。
ナイフ使いに気を取られていたオレは、一瞬反応が遅れて、コトリを腕から離してしまった。
「コトリ!」
シホの身体は、ナイフ使いの真後ろにあった。
そのシホに向かってコトリが一直線に走っていく。
急いで掴まえようとしたところに、また何かが降ってきた。
「どはっ!」
「ごふっ!」
どすん、ばすんと、地響きでも起こしそうな、いかにも重たげに落ちてきたのは大男がふたり。
下敷きになりそうになり、転がりながら慌てて避けた。
ふたりは、ごろごろと転がって着地するや、すかさず態勢を整えて四方へと目を走らせる。
図体がでかい割に身のこなしはよかった。
コトリを見つけて大男のひとりが叫んだ。
「このガキぃ!!!」
どうやら、こいつらも奴らの仲間らしい。
コトリは、ナイフ使いの横を呆気なくすり抜けていた。
奴は、余裕しゃくしゃくでポケットに両手を突っ込んだまま、コトリには見向きもしなかった。
「お前らの相手はこっちだ!」
大男たちがコトリを追いかけようとするのを慌てて止めた。
奴らがオレに気付いて振り返る。
はは……こりゃ、やべえな。
オレの前には、ナイフ使いと大男がふたり。
ちらりと後ろの様子を確かめると、シノちゃんは銃を向けていた男と格闘中。
今度は銃の替わりにナイフを手にしていた第3の男。
意外と動きがスムーズで、シノちゃんも少し苦労してる。
あの野郎、なかなかやるじゃねえか。
シゲさんもオレが最初に闘った相手とにらみ合いを続けていた。
ふたりに助けを求めることはできそうにない。
1対3かよ……。
状況を把握したのか、大男ふたりは狙いをオレに切り替えたようだった。
オレを挟むように、ふたりが左右に移動しながら広がっていく。
その隙間に入ってきたナイフ使い。
やばいどころじゃないんですけど……。
手ぶらの相手なら3人でもなんとかなる。
だが、一人はナイフ使いだ。
あの野郎に攻撃参加されたら、まず防ぎきれない。
あいつ等の向こうで「ママ!ママ!」とコトリが必死にシホを呼んでいた。
泣き出しそうな声が、いじらしかった。
しゃあねえな……。
守ってやると心に決めた。
こりゃ、マジで命落とすかもしれねえな……。
でも、かまわない。
あいつ等のいない世界のほうが、オレには辛い。
ゆっくりと大きく息を吐き出した。
静かに腰を落として、意識を集中しながら左手を前へと大きく突き出す。
丹田に気を込めて、手足へと送る。
こっからはマジの本気モード!
ありゃ、かぶったか?
どっちだっていい!!
一気に突っ込もうとした、その時だ。